魚肉たんぱく同盟コラムVol.7

長友佑都の専属シェフを動かした菅原由勢の「こだわり」

2021.07.20

未来を見据える若武者。そんな表現がぴったりの人物、オランダ1部のAZアルクマールに所属する菅原由勢は、いまオランダで3シーズン目を迎えようとしている。今シーズンはチームの中心選手としての活躍が期待され、すでに21歳とは思えぬ風格を漂わせ始めた。その菅原がもっとも大切にしているのが、「細部へのこだわり」だ。ピッチ上での結果が全ての厳しい世界で生き残るためには、ピッチ外での取り組みが命運を分けることを、彼は知っている。そのこだわりは、あの長友佑都の専属シェフを務める加藤超也をも動かした。


菅原由勢選手プロフィール
2000年6月28日生まれ。5歳の時にサッカーを始め、中学の時に、ジュビロ磐田との争奪戦の末に名古屋グランパスの下部組織に入団。史上2位の記録(17歳7か月27日)でJ1リーグ開幕戦先発を果たす。さらに17歳10ヶ月で名古屋グランパスとプロ契約(名古屋史上最年少記録)。翌年の2019年6月18日には、オランダ1部のAZアルクマールへ期限付き移籍を発表。そして2020年2月23日には、AZアルクマールへの完全移籍が決定した。その間、常に世代別日本代表に選出され、2020年10月にはカメルーン代表との親善試合に挑むサッカー日本代表に初選出されるなど、将来を嘱望される若きサイドバック。


菅原由勢選手

―菅原選手が競技を始めたきっかけを教えてください。

菅原:5歳の時に、近所の友達に「サッカーをしようよ」と誘ってもらったことがきっかけです。それからしばらく同じチームでプレーしていましたが、小学6年生になった時に、「より高いレベルでチャレンジしたい」と考えるようになりました。そこで、ジュビロ磐田のジュニアユースの選考会に行くことにしたのですが、ちょうど同じ時期に、名古屋グランパスのスカウトの方から「うちに来ないか」と熱心に誘っていただいたんです。すると今度はそれを聞きつけたジュビロ磐田のスカウトの方からも「最終選考だけでもいいから来てくれ」という話が……。そして最終的に名古屋グランパスでお世話になることに決めました。

加藤:初耳。結構レアな話だよね。

菅原:僕の家族や当時お世話になったコーチしか知らない話ですね。

―その後、世代別の代表にも選ばれ続けるなど、順調にキャリアを歩まれていますが、これまでのキャリアで印象に残っている出来事はありますか?

菅原:まだまだ結果を残せていないので、特に「これだ!」という出来事はないのですが、一つ挙げるとすれば、2019年に行われたU-20ワールドカップ・ポーランド大会ですね。結果的に僕のミスで韓国に負けてしまったんです。ただ、大会を通して、パフォーマンスは非常に良かったと思っています。その証拠に、AZアルクマールからもオファーが届きましたし、あの大会は僕のターニングポイントになる大きな出来事だったかなと思っています。

―ご自身のミスの話が出ましたが、ミス自体への後悔はありますか?

菅原:もちろん、後悔はありますよ。世代別とはいえ、ワールドカップという大きな舞台でしたので、自分に失望しましたし、「こんな大事な試合で何をやっているんだ、俺は」という気持ちがありました。

―そのような出来事も、最終的には前向きに捉えられる性格なのでしょうか?

菅原:「もっと上手くなるしかない、強くなるしかない」と割り切ることができたんです。良いミスだったとは思いませんが、いまは、「次に繋げることができたミス」だったと思っています。

―サッカーをやっている小・中学生、そして指導者にも聞いてもらいたい話ですね。菅原選手のプレーは非常に攻撃的ですが、ご自身ではどのようなプレーを意識していますか?

菅原:攻撃的で、サイドバックながらも、得点やアシストに絡むのが僕の特徴です。また守備についても、最近はヨーロッパリーグなどで屈強な選手たちと対峙し、個人の強さも身についてきました。マンチェスター・ユナイテッドやナポリなどのビッグクラブと対戦してきたことは自信になりますし、この経験を経て、課題だった守備も徐々に武器になりつつあると思っています。

加藤:すごい。

菅原:1年目でいきなりですからね。「すげぇ所に来たな」と自分でも思いました。

菅原由勢選手

―そのような世界の一流の選手たちと戦うと、物怖じもしなくなるものですか?

菅原:「大体いけるな」という感覚にはなりますね。もちろん、どんな相手でも、試合前には分析もしますし、油断は一切ありません。でも、世界の強豪クラブと試合をした後からは、リーグ戦では、「目の前の選手を当たり前に抑えないと世界には行けないな」と強いメンタルで試合に臨むことができるようになりました。

―海外と日本では、どのようなところにサッカーの違いを感じますか?

菅原:僕はJリーグで出場を重ねた選手ではないので、比較が難しいところもありますが、皆さんが言うように、インテンシティ(強度)の違いは特に感じています。攻撃から守備、守備から攻撃の切り替え時の隙を逃さない速さなどは、本当に0コンマ何秒の世界。その差で大きな違いが生まれるということを感じさせられました。また、海外の選手は、常にゴールを獲るためにポジションを取り、さまざまな駆け引きをしかけてくるなど、シュートへの意識、ゴールを獲る意識も日本とは大きく異なるように思います。

―海外に行くとまずは、言葉の壁があると思いますが、チームメイトとのコミュニケーションはいかがでしたか?

菅原:僕は明るい性格なので、言葉は喋れなかったけど、問題なく馴染むことができました。変に溶け込もうと意識することはなく、自然体で楽しみながら入れたかなと思っています。

―菅原選手はこの先どのようなところを目指していますか?

菅原早くステップアップしたい、イタリアやスペインでプレーしたいという欲求は強いです。「何歳になったら行こう」ということではなく、行けるタイミングで。今年の夏だって冬だって、可能性はあるので「いつまでに」と考えるのではなく、行ける時に行きたいし、そのためにも本当に毎日が勝負だと思っています。

―そのような目標を達成するために行なっている取り組みの一つが、食事だと伺っています。栄養面では加藤シェフのサポートを受けているそうですが、加藤シェフとはどのようにして出会ったのでしょうか?

菅原僕がSNSを通じて、加藤シェフにダイレクトメッセージを送りました。そのメッセージにお返事をいただいたことが始まりですね。

加藤:めちゃくちゃ長いメッセージを送ってくれたよね。

―加藤シェフのことは以前からご存知だったのでしょうか?

菅原:当時、僕はプロになったばかりで、時間の使い方を考えていました。プロって意外と時間があるんです。午前中に練習したら午後はフリーの時間も多いので、その時間を上手に活用できないかなと考えていた時に、加藤さんと長友さんの栄養に関する記事を見て、栄養に興味を持ち連絡させていただきました。

―加藤シェフは、アスリートをサポートする時、どのようなことを心がけていますか?

加藤:課題は人それぞれなので、その人に合わせることを心がけています。ただ、僕自身は、食事・栄養に対して意欲がある選手をサポートしたいんです。食事は、毎日の行為なので、選手自身に意欲がなければ、良い関係は続かないんです。選手の意思や熱量に僕が乗っかるというイメージなので、一番重要なのは選手の熱量なんです。

―では、今回のお二方の出会いは、加藤シェフにとっても理想的な形だったのですね。

加藤:そうですね。菅原選手がメールをくれたのは、17歳のときでした。長文のメッセージが届いて、その内容が熱かったんですよ。「高校2年生でここまで考えているのか」と驚かされました。その時は、菅原選手とは会ったことも話をしたこともないし、プレースタイルも生い立ちも知りませんでした。でも「この子はすごく成長しそうだな」と思い、すぐに返信した記憶があります。

菅原:すぐに返事が来たので、僕がびっくりしましたね(笑)。「あれ?本当に返ってきた!」って。

加藤:キャリアは関係ないんですよね。大学生であろうがアマチュアでであろうが、パッションを感じたら、何か返さなきゃという気持ちになるじゃないですか。その熱量が強かったのが印象的でした。

加藤シェフ

―その時、菅原選手は、どんなことに課題を感じていたのでしょうか?

菅原:課題だらけでした。栄養の知識も不足していると自覚していましたし、筋トレなどのトレーニング知識もほぼゼロでした。とにかく色々なことを吸収したいと思っていましたが、中でも、栄養が一番大事だということを感じていました。

―メッセージを受けて、加藤シェフは菅原選手に対してどんなサポートをすることにしたのでしょうか?

加藤:まずは会って話をしようということになりました。しかし、僕が海外で生活していたこともあって、なかなかタイミングが合わず、結局メッセージを頂いてから、約1年後にようやく会うことができました。

その時に菅原選手は「僕はとにかく自分で(料理を)作れるようになりたい」と、自炊力をつけることを課題に挙げていたんです。そこで僕が愛用している調理器具をプレゼントして、「使い方は教えるから、オンラインでやり取りをしよう」という話になって、サポートがスタートしました。

―「料理が得意」と書かれていた記事を読んだことがありますが、菅原選手は本当に料理が得意なんですね。

菅原:本当です。大得意です。

加藤:最初から包丁が使えていたことには驚きました。料理をサポートするにせよ、包丁が使えない人に対してオンラインで教えるのは結構難しいんです。でも菅原選手は、包丁が使えるので、あまり細かい指導をした記憶がありません。

―菅原選手は小さい頃からご家庭で料理のお手伝いをしていたのですか?

菅原:小・中学生の頃は、自分で朝ご飯を作っていましたね。使い方が上手いか下手かはわかりませんが、小さい頃から料理をしてきて本当に良かったです。

加藤:菅原選手の包丁捌き、皆さんにみせてあげたいくらいです。

菅原:なんか、嬉しいですね。

―今もオランダでは自炊をしているのですか?

菅原:時間を見つけて自炊をしています。その日の体の状態によって、何を食べるか、タイミングも考えながら食事を摂るようにしています。

―食事の質や量の面で、どのような所に注意して食事を摂られていますか?

菅原例えば、激しいトレーニングをした後は、たんぱく質を中心に栄養を摂るようにしたり、疲労を考慮してリカバリー要素のあるものを選んでいます。また水にレモンを入れて飲むなど、細かいところにもこだわりながら取り組んでいますね。

―加藤シェフからは、どのようなアドバイスをしているのでしょうか?

加藤:「こういうものが作りたいです」というリクエストに対して、その都度タイミングを合わせながらサポートしています。調理を教えていると、あっという間に時間が過ぎてしまいます。オランダの時間に合わせてサポートするので、夜中にやることもあります。

菅原:眠そうですよね。申し訳ないです。

加藤:菅原選手はとにかく行動が早いんですよ。例えば、さっき本人が言っていたように、水にレモンを絞って入れるのも「たんぱく質を合成する上でビタミンCは非常に大事だから、レモンを絞って飲むと良いよ」とアドバイスをしたら、次の日には「さっそくレモン買ってきて絞って飲んでいます」とメッセージとともに写真が送られてきました。料理も同じで、「こんな感じで作りました」と写真を送ってくれるので、それに対して「もうちょっとこういうものを足してみようか」とか「こういうものを食べたらより完璧だね」という会話をしています。今はもうほとんど言うことがないくらいです。

―タンパク質の摂取には、ビタミンCが重要だというお話もありましたが、他には、どのような点に注意が必要でしょうか?

加藤色々な食材からたんぱく質を取ることを指導するようにしています。お肉ばかりに偏らず、お魚を取り入れるということですね。菅原選手に、オランダのスーパーの状況を映してもらいながら、「今映ったこれいいね。これを買おうか」というようなやり取りもしています。

菅原どうしても肉が中心になりがちでしたが、いまは肉も魚もバランスよく摂るようになりました。

加藤:肉が中心になってしまう理由は、どこでも買うことができる「身近さ」と、魚に比べて価格が安い「手頃さ」にあると思うんですが、やはりバランスよく魚も食べていくべきです。

―そこで有効なのが、「魚肉タンパク」ですね。菅原選手は「魚肉たんぱく同盟」のことをご存知でしたか?

菅原:いえ。よく知らなくて……。ただ、最近記事を読んで、「こういうものがあるんだ」と興味を持っていたところです。

加藤:菅原選手から「SNSで見たんですけど、かまぼこって体に良いんですか?」って僕の所にメッセージが届きました。

菅原:しましたね(笑)。

加藤:「興味あるの?」と返したら「かまぼこのことも、教えてもらえますか?」という話になって、次の日にかまぼこ談義になりました。

菅原30分以上、かまぼこのことだけを話していましたね。

―話の内容が気になります。どのような話をされたのでしょうか?

加藤やはりたんぱく質の「質」についてですかね。たんぱく質を摂るだけなら、プロテインでも20g〜30gを取ることができますよね。でも、鈴廣のかまぼこは、天然のお魚6〜7尾分がこのかまぼこ一つで摂れること、魚のアミノ酸バランスが非常に良いから、筋肉にとって必要なたんぱく質を効率的に吸収できるということ、そして高い消化性のことを話ししました。試合の前後には、消化が遅いものはなるべく摂らない方が良いし、体も摂れない状態になっています。そんな時でも、お刺身よりも消化が早いので、「試合の前後にもかまぼこは良いよ」ということを話しました。

菅原お話を聞いて驚きました。かまぼこが体に良いなんて思ってもいなかったんです。

加藤:これまで、どんな時にかまぼこを食べていた?

菅原:うーん。どうだろう……。

加藤:分かるなぁ、その感覚(笑)。

加藤:クラブハウスでの食事で出てこなかった? 例えば、うどんに入っているとか……。

菅原:入っていました。本当にそういうイメージですよね。「これがたんぱく質だ」と意識して食べたことはなかったですね。

―鈴廣かまぼこはもう食べられましたか?

菅原:いえ、まだなんです。

―じゃあ、食べてみますか?

菅原:えっ、この場で食べられるんですか?

―ぜひ試食してみてください。これは鈴廣かまぼこと加藤シェフがコラボして考案した「フィッシュプロテインバー挑・蒲鉾」という商品で、3種類あるんです。タコのガリシア、キンメのアクアパッツァ、ほうれん草とホタテのグラタン、どれを食べますか?

菅原:全部食べたいです。タコのガリシアもいいなと思ったけど、まずはこれが気になります。(と言って、ほうれん草とホタテのグラタンを食べる)

加藤:全部食べてみてほしいな。

菅原:いいんですか?じゃあ、全部いただきます! めっちゃいい匂い。

―お味はいかがですか?

菅原:本当に美味しいです!

加藤:例えばヨーロッパリーグとかでは、アウェイでスペインやイタリアに行ったりするでしょ。移動中にこういうものが食べられたらどう?

菅原すごく便利ですね!

加藤クラブハウスの冷蔵庫に入れておいて、トレーニングが終わった後「しっかり魚のたんぱく質を摂りたいな」と思った時にこういうのをパクッと食べれたら良いでしょ。これ一本でたんぱく質が15g入っているんです。

菅原:気軽に食べられるし、最高ですね。

菅原選手&加藤シェフ

―次はタコのガリシアを食べてみます?

菅原:食べたいです!

加藤:スイッチ入っているじゃん(笑)。


〜試食中〜

加藤これがタコとジャガイモ。試合が終わった後は炭水化物もしっかり摂らないといけません。そのような時に、たんぱく質と一緒に炭水化物も補給できるようなイメージで作りました。

菅原:それぞれに特徴があるんですね。冷凍してオランダに持って帰りたい!

―菅原選手の細部へのこだわりが垣間見られる時間でした。最後に、菅原選手のこれからの目標を聞かせてください。

菅原:これまでの2年間は、サッカーに集中しなければいけなかったので、チームに馴染むこと、戦術的に適応することに注力していました。その一方で、見落としていたものもあったと思っています。でも、オランダでの生活も3年目になりますし、生活スタイルも確立できたので、今年は、これまで以上に細部を突き詰めていくつもりです。サッカーだけをやっていれば結果が出るような簡単な世界ではないので、どれだけピッチ外で考えながら行動できるかが大事だと思っています。

2022年のワールドカップ・カタール大会に出場し、さらにチャンピオンズリーグで優勝することが僕の目標です。「若い頃から、細部まで積み重ねてきた菅原だからこそ結果が出せたんだね」って言ってもらえるような選手になりたいですね。

菅原選手と加藤シェフ

書き手:瀬川泰祐(スポーツライター・エディター)

株式会社カタル代表取締役。HEROs公式スポーツライター。Yahoo!ニュース個人オーサー。ファルカオフットボールクラブ久喜アドバイザー。ライブエンターテイメント業界やWEB業界で数多くのシステムプロジェクトに参画し、サービスをローンチする傍ら、2016年よりスポーツ分野を中心に執筆活動を開始。リアルなビジネス経験と、執筆・編集経験をあわせ持つ強みを活かし、2020年4月にスポーツ・健康・医療に関するコンテンツ制作・コンテンツマーケティングを行う株式会社カタルを創業。取材テーマは「Beyond Sports」。社会との接点からスポーツの価値を探る。公式サイト http://segawa.kataru.jp