鈴廣営業マンが行く! 名店の「蕎麦前」をたずねて vol.7 そば処 治兵衛

江戸から続く、おそば屋さんの粋なたのしみ方「蕎麦前(そばまえ)」。おそばが出てくる前に、日本酒とともにおつまみをいただく文化です。このシリーズでは、鈴廣営業マンが各エリアのおそば屋さんを訪問。蕎麦前の良さを知る店主のみなさんにインタビューしながら、名店の逸品に触れていきます。
今回は、箱根湯本駅前にある老舗のおそば屋さん「そば処 治兵衛」(神奈川県箱根町)をご紹介。若い力でお店に新しい風を吹き込んでいる、支配人の田中慶佑さんにお話を伺いました。

<店舗紹介>

―― 治兵衛さんは、いつごろ創業されたんですか?

当店は1970(昭和45)年、「旅籠そば」として創業しました。その後、区画整理事業に伴い1982(昭和57)年に箱根湯本駅前の現在地に移転。屋号を初代の名である「治兵衛」に改めました。私は4代目にあたり、2021年に家業に入りました。

店内の設えは、木のぬくもりを大切にしています。テーブルは、信州の老舗家具工房・松本民芸家具の一枚板を採用。窓越しに見える箱根の自然とともに、旅の風情を味わっていただきたいと思っています。

―― 駅前の喧騒とは別世界の、とても落ち着いた雰囲気のお店ですね。おそばやダシを、とても丁寧につくられていると伺いました。

そば粉の産地は、北海道産を軸にしつつ、あえて1か所に特定していません。そばは農産物なので、毎年産地ごとに出来も違ってきます。製粉会社と相談しながら、その年ごとに良質なものを仕入れています。

一方で、どんなにいいそば粉を使っても、打ち方ひとつで香りや味わいが出ないこともあります。とくに湿度の高まる初夏から梅雨にかけては製麺が難しいのですが、おいしいおそばになるよう、当店の職人たちが加水量や延ばすタイミングを日々調整しています。

ダシは、宗田節にサバ節、昆布で取っています。こちらも、季節や火力でダシの出方が変わってくるので、常に目を離すことができません。濁りやアクが出ないよう、細心の注意を払って、品質を保っています。

<板わさとお酒> 鈴廣のかまぼこと、すっきり飲める希少な地酒「隆」

―― 板わさに鈴廣を選んでいただいているのはなぜでしょうか?

鈴廣さんとのお付き合いは、もう半世紀以上になりますね。昔はかまぼこを自転車に載せて、当時まだ舗装されていなかった国道1号を走って配達してくれたと聞きました。

小田原・箱根の名物であるかまぼこの本当のおいしさを知ってほしいので、当店の板わさはずっと、天然素材の鈴廣。お酒の注文を受けた際には必ずおすすめします。お客さまにも喜んでいただいていますよ。

―― ありがとうございます! 蕎麦前に合う日本酒を教えていただけますか?

「隆(りゅう) 純米吟醸」です。丹沢山地に抱かれた山北町にある、川西屋酒造店さんが醸造している希少なお酒です。火入れをしていない生酒で、すっきりとしたバランスの良い味わい。料理を邪魔しないので、蕎麦前にもぴったりです。冷酒でも、お燗でもおいしく召し上がれます。

<蕎麦前>職人が一つひとつ揚げる ふっくらサクサクの「天ぷら」

―― フレッシュな味わいの日本酒が、板わさにぴったりです。続いては蕎麦前ですが、「天ぷら」をご用意いただきました。まさに王道ですね!

当店の天ぷらは長年の人気メニューです。2本のえび、なす、かぼちゃにピーマン、舞茸を盛り合わせています。火の通り方にばらつきが出るフライヤーは使わず、昔ながらの銅鍋を使用。専任の職人が、五感を研ぎ澄ませて一つひとつ丁寧に揚げています。衣はサクサク、具材はふっくら。蕎麦前にはぜひおすすめしたい一品です。

<おそば>治兵衛自慢のそばをシンプルに味わう「ざる」で締める

―― 素材の味が生きた天ぷらで、お腹も膨れてきました! 締めのおそばは、どれがいいでしょうか?

お酒を飲んだ後ということもあるので、当店のそばの味わいを楽しんでいただける「ざる」をおすすめします。とろろそばなど、さっぱりと食べられるメニューもありますが、やっぱり締めはシンプルなものがいいですね。厳選素材を使って毎日自家製麺している、のど越しのいいおそばをご堪能ください。

箱根の思い出の1ページを演出する、アットホームなくつろぎ空間

―― ご自身も生まれ育った箱根湯本は、どんな街ですか?

湯治場として栄えたかつての箱根湯本は、長期間逗留する方がほとんどの静かな温泉街でした。交通機関が発達した近年では、多くのお客さまが訪れるにぎやかな観光地に。日帰りや1泊で、気軽に温泉旅を楽しむ方が増えました。箱根の山々と早川が織りなす優美な景色に癒やされる、私も大好きな街です。

―― 読者へのメッセージをお願いします。

当店が目指すのは、旅の思い出の1ページを演出すること。お客さまには、職人が丁寧に仕上げたおそばと、地元のお酒やかまぼこを心ゆくまで楽しんでいただきたいですね。

そのためには、居心地のいいおもてなしが大切。接客はあえてマニュアル化せず、スタッフそれぞれの言葉でお客さまをお迎えしています。家に帰ってきたような、どこかほっとする雰囲気の中で、ゆっくりおくつろぎください。

蕎麦前をじっくり味わいながら過ごすひととき―。料理はもちろん、ゆっくり流れる時間やお店ごとに違う空間なども、五感を使って贅沢に楽しめます。
蕎麦前は、ふだんは長居しないおそば屋さんでの時間をより豊かにしてくれる素敵な文化。いつでも、だれでも体験できます。このインタビューを読んで少しでも興味をお持ちになりましたら、ぜひお店に足をお運びください。

■今回いただいたメニュー ※価格は税込み
板わさ(900円)
隆 純米吟醸(1合 880円)
天ぷら(1250円)
ざる(880円)

■店舗情報
そば処 治兵衛
〒250-0311 神奈川県足柄下郡箱根町湯本702(箱根登山鉄道 箱根湯本駅下車 徒歩2分)
TEL 0460-85-5354
営業時間 <平日>11:00~18:00 <土日祝>11:00~19:00
※新型コロナウイルス感染拡大状況により変更の場合あり
定休日 木曜日

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