巻物に見立てた形が「道半ばで切れることのない」という意味の縁起物として知られる伝統の味「伊達巻」。お正月のおせち料理に登場するイメージが強いですが、鈴廣の「伊達巻」は一年を通して人気が高い定番商品です。上品な魚の旨みと上質なみりんの優しい甘さが生み出すジューシーな美味しさと、鮮やかな黄色の断面の美しさが魅力の一品は、お正月だけのものにしておくのはもったいない。前菜やおつまみとしてそのままいただくのはもちろん、ちらし寿司や和え物、スイーツなど、アイデア次第で楽しみ方は無限大に広がります。
伊達巻の奥深い甘さを出すために、砂糖だけでなく、麹が生み出す上品な甘みが特徴の本みりんをたっぷり使用。また、卵には有名玉子焼専門店でも使われるブランド卵「都路のたまご」を採用しています。マリーゴールドを含む上質な餌を食べて育った鶏の黄身の濃い卵を使用することで、濃厚な味わいと鮮やかな黄色を際立たせました。
そして、一番重要な魚選び。コクのある卵や、風味豊かなみりんに負けないだけの、旨味の強い魚を選ばなければなりません。
七代目廣吉が選んだのは小田原かまぼこの代表的な魚であるグチ類。グチ類と一言でいっても、種類や大きさによっても旨みや食感が変わります。鈴廣の職人がその時々で最適な魚を選んでブレンドし、伊達巻専用の旨み豊かなすり身を作ります。
このすり身に砂糖をざらつきが残らないよう少量ずつ丁寧にすり、みりんと卵を加え、鈴廣ならではの伊達巻の生地ができあがります。
こうしてつくられた生地を、適度に空気を抱かせながら手早く攪拌。これを一晩寝かせて落ち着かせ、翌日さらに攪拌しながらきめを細かくしていくのですが、この塩梅が職人技。わずかな比重の違いで食感はまったく違うものになってしまうので、材料の状態や気温、湿度も鑑みながら、細かな調整が必要です。
ふんわり滑らかに仕上げた生地を鍋に流し入れ、焼きの工程へ。焼き加減によっても味わいは大きく変わるので、ここでも油断はできません。基本は弱火でじっくり。職人が火加減に目を光らせて、ムラなく鮮やかなきつね色に焼き上げます。焼成後、熱々の状態のまま成形工程に進み、縁起のよいきれいな「の」の字に巻いてゆっくり冷ませば完成です。
前菜やおつまみとしてそのまま食べるなら、切り方にも工夫を凝らしてみましょう。
12ミリほどの厚めにカットすれば濃厚な旨みと甘みがしっかり感じられ存在感のあるおかずになりますし、5ミリほどの薄切りにすれば軽い食感で箸休めにぴったり。フライパンで軽く焼いたり天ぷらにするなど熱を加えると、魚の旨みがふわりと際立ちまた違った味わいが楽しめます。
さらに、生クリームやあんこと合わせれば、ほどよい塩気がアクセントになったユニークなスイーツに早変わり。砂糖をかけてバーナーで炙った”伊達巻ブリュレ”のような手の込んだアレンジをする方もいらっしゃるようです。
上質な素材と丁寧な職人技でつくられる鈴廣の「伊達巻」。おせちの一品という先入観にとらわれず、ぜひ一年を通して楽しんでみてください。
Photography by Hiyori Ikai, Written BY Tomoyo Tsuchiya