鈴廣解体新書 国家資格を持つかまぼこ職人たち

かまぼこ職人には国家資格があるって、ご存知ですか?

若手から熟練者まで、現在鈴廣で働く職人のうち、資格最上位で国家資格でもある一級技能士は16人。この選ばれた職人達こそ、鈴廣かまぼこのおいしさを生み出す心臓部です。彼らの仕事ぶりや味の追求などを、一級技能士で常務取締役の神 兼智(じん かねとも)さんに伺いました。

どうしてあるの? かまぼこ作りの国家資格

「かまぼこ職人国家資格の正式名称は「水産練り製品製造技能士」といい、かまぼこなど水産練り製品の製造に関して、深い知識と高い技術を持っていることを国が証明するものです」。

「かまぼこ作りは、魚選びやさばくことから始まり、魚ごとの特徴の把握、鮮度の判定や、水晒しや脱水の加減、すり身の保水力に応じた水分量と塩分量の見極め、そしてもちろん、食感の良さや美しく形作る際に必要な極めて高度な成形テクニック、加熱の温度管理など、無数の工程があります。一級技能士の取得には最低でも10年と言われ、資格保持者には絶大な信頼が寄せられます」。


1000年以上も前から日本各地で作られてきたかまぼこは、世界に誇る和食文化のひとつ。かつては職人が長年の経験や知識を元に、庖丁一本で生魚をおろすところから見事に仕上げるまでを担ってきましたが、近年は手間暇のかかる、生魚からすり身をつくるかまぼこ屋が少なくなってしまいました。
成形も機械化にシフトしてきています。そのような背景もあり、本来のかまぼこ職人が身に付けるべき職人の技術継承が難しくなっています。かまぼこつくりを後世へ継承するためにも、高い技術や深い知識を持つ職人を、国家資格で保証しているのです。

職人の手作り最高級かまぼこ「古今(ここん)」と「一(はじめ)」

かまぼこ作りも大量生産できるようになった現代において、鈴廣では今もなお、職人が手作りする看板商品があります。
超特選蒲鉾「古今(ここん)」と、年に一度しか作らない超特選蒲鉾「一(はじめ)」。


「技術を極めた私達職人にしか出せない味、というものがあります。たとえば最上級の「古今(ここん)」。季節、温度、湿度、魚の状態などを考慮しながら、私達が真剣勝負で生み出す味です。また、年末の特別限定品である「一(はじめ)」は、国家資格所有者の中でも、限られた熟練職人だけが年に1度精魂込めて作る正月向けの商品。紅白の300組を、職人10人で1日100組、3日間それだけに全神経を集中し、誇りを持って挑みます。これが無事終わると、職人は一年を締めくくれるというわけです」。

かまぼこ職人が追求する“のどごし”


「『一』は、『一』のために漁師さんに獲っていただいた魚を一匹ずつ手でおろし、石臼で擂りあげます。すりみを板につけるのは特別な「重ね付け」という方法です。もっとも時間がかかる製法ですが、すり身を数ミリ単位で薄く幾重にも重ねて板につけていくことで、特別なしなやかさや滑らかな舌ざわりなどが生まれます。なかでも大切にしているのは“のどごし”。しなやかな「ねばり気」がありながら、すっとなくなる。これが、職人の求める理想の“のどごし”です。かまぼこ作りは、いわば掛け算のようなもので、形、香り、口当たり、味、粘り、のどごしの良さ、その中でひとつでもだめなものがあるとゼロになってしまう。そのぐらい繊細なのです」。

かまぼこ業界のリーディングカンパニーとしてできること

魚を食べる機会が減りつつある現代。神兼智さんは、日々どんなことを考えているのだろう。


「職人としては、業界内全体のレベルアップを図りたい。とくに若手職人の育成は重要です。鈴廣には、若手職人の育成カルテというものがあり、指導者が一人ひとりと向き合いながら、「魚肉たんぱく研究所」が示すデータなども活用し、ひとつひとつの作業の理由を明確にしながら、理解が深まるように指導をしています。また、小田原蒲鉾協同組合での技術指導もしていますが、今後は蒲鉾業界全体の技術向上に尽力できればと思っています。また鈴廣としては「魚肉たんぱくで世界を健やかにしたい」という大きな目標があります。世の中のニーズに応えつつも、市場にないものを作るのが私達の使命。若い世代に食べてもらうために何ができるかを考えています。実はいま、新しい商品開発の最中です。具体的な内容は来年以降になりますが、楽しみにお待ち下さい」。

text by Saori Bada / photographs by Hiyori Ikai

この記事を書いた人

馬田草織

編集者・ポルトガル料理研究家。料理雑誌などで編集者・ライターとして活躍するかたわら、自宅でポルトガル料理教室を主宰。Web「cakes」にてお酒に合うポルトガル料理を紹介する「ポルトガル食堂」を連載中。
近著『ムイトボン!ポルトガルを食べる旅』(産業編集センター)など著書多数。

http://badasaori.blogspot.com/

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