鈴廣かまぼこでは国家資格を持つ職人が、日々魚と向き合い、素材の力を感じていただけるかまぼこを作っております。
全13回にわたり、伝統的なかまぼこの作り方をご紹介しています。連載の中盤となる今回の工程はすり身の裏ごし。ライターの土屋朋代さんが聞き、職人の葛西洋輔が答えます。
*本連載は「鈴廣の職人技」サイトの職人インタビュー(聞き手:土屋朋代)から転載したものです。
鈴廣かまぼこでは国家資格を持つ職人が、日々魚と向き合い、素材の力を感じていただけるかまぼこを作っております。
全13回にわたり、伝統的なかまぼこの作り方をご紹介しています。連載の中盤となる今回の工程はすり身の裏ごし。ライターの土屋朋代さんが聞き、職人の葛西洋輔が答えます。
*本連載は「鈴廣の職人技」サイトの職人インタビュー(聞き手:土屋朋代)から転載したものです。
職人の葛西洋輔は朗らかな笑顔とユーモアを交えた軽妙なトークで場を和ませるムードメーカーだ。料理好きの凝り性体質で、学生時代から、カレーに茶碗蒸し、プリン、さらにはラーメンをかん水麺から作ってしまうほど。現在も、休日には家族に手づくり料理を振る舞い、カレーの隠し味にソースやケチャップ、時にはチョコレートを混ぜ込むなど、味への飽くなき探究心とチャレンジ精神で、周囲を驚かせているのだそう。
「自分自身も食べるのが好きですが、それ以上に、自分が作ったものを食べて喜んでもらうのが大好きなんです。」
その気持ちは昔から変わらず、食に携わる仕事に就きたいと、青森の高校を卒業した2004年に鈴廣に入社。職人が全て手づくりする伝統製造課と機械生産のライン製造課を行き来していたが、仕事ぶりを見た上司に、「探究心の強さが職人向き」と言わしめ、2019年春から職人がすべて手づくりする伝統製造の世界に舞い戻ってきた。
写真上:裏ごしされて滑らかになったすり身
そんな葛西の性格が本領を発揮する工程は「裏ごし」。摺り上げた身を細かい網目を通して裏ごしすることで、すり身に混ざった魚の皮や細かい小骨などを取り除き、絹のようななめらかな生地に仕上げていく。口に含んだ時のつるつるぷりぷりの食感を生み出すには、小田原特有の製法であるこの工程がカギとなる。
「すり身を極小サイズの網目に通すため、摩擦ですり身が熱を持ちやすくなってしまうんです。すり身のタンパク質は熱にとてもデリケート。温度が上がるとどんどん硬くなってしまいます。」
すり身にダメージを与えずに裏ごしするには、かける圧力の細かな調整や氷水での冷却による温度調整が必要。しかもその適正温度は、魚の種類やその生息水域によっても変わってくるというから複雑さはさらに増す。
「冷たい水域で育った魚は10℃で硬くなってしまいますが、暖かい水域の魚は20℃くらいまで大丈夫なんですよ。」
魚のことを熱心に学び尽くした葛西だからこそできる、絶妙なコントロールテクニックが不可欠だ。
「地味ですが完成の良し悪しを大きく左右する重要な工程なんです。」
またこの工程は、すり身づくりと成形の橋渡し的なポジションであることから、各工程の進行管理という重要な役割も。
「成形の工程が詰まっている時には、擂潰の工程を少し待ってもらったり、もちろん逆もあります。すり身の擂り上がりから成形までの時間がかかるほどすり身は硬くなってしまうので、流れるように作業を進めなくてはいけないんです。」
自分の作業に集中しつつも、常にアンテナをはって周囲の状況を把握しなくてはならない、バランス感覚が問われるポジションだ。
今からは想像がつかないが、入社当初は内気で悶々と仕事をこなしていたという。転機となったのは尊敬する先輩の一言だった。
「どんなに忙しくても、仕事に食われるなよ。」
仕事に振り回されていたら自分を見失ってしまう。目標をもって能動的に動いた方が仕事は楽しい。先輩はそう優しく諭してくれたのだそう。
「私はこの言葉に救われたので、今度は私が後輩たちにこの姿勢を伝えていく番だと思っています。」
こう語りながら、後輩たち一人ひとりに目を配り、「何がしたい?」「次はどうしていこうか?」と優しく問いかける。葛西の熱心な学びの姿勢は、次の世代にも確実に受け継がれている。
Written BY Tomoyo Tsuchiya