#板かまぼこ

かまぼこができるまで③「水晒し」職人 木下稔

鈴廣かまぼこでは国家資格を持つ職人が、日々魚と向き合い、素材の力を感じていただけるかまぼこを作っております。

全13回の連載でお伝えしている伝統的なかまぼこの作り方。今回は魚の身を水にさらし、余分な脂や血合いなどを流す工程です。職人の木下稔がこたえます。

*本連載は「鈴廣の職人技」サイトの職人インタビュー(聞き手:土屋朋代)から転載したものです。

かまぼこを愛する「採肉の調整師」

長崎県出身の木下稔が小田原に初めて降り立ったのは高校生の時。地元の水産高校に通っていた木下は面接のために鈴廣を訪問。その際に食べた鈴廣のかまぼこの味は今でも忘れないという。

「長崎のかまぼこはちゃんぽんに入っているような柔らかく味の濃いものが主流ですが、その時食べた鈴廣のかまぼこのしなやかな歯ごたえと豊かな風味は、これまでのかまぼこの概念を覆すものでした。衝撃でしたね。」

木下は高校卒業後の2003年に入社。以降、手作業のみで作る伝統製造課一筋という筋金入りの職人だ。とはいえ、入社当時は苦労の連続。高校時代の実習でさつま揚げを作った経験があり、そこで練り物製造の楽しさに目覚めたものの、実際に職人の世界に飛び込んでみると右も左も分からない。

「もともと手先が器用な方ではなかったので、人一倍の努力が必要でした。」


それに加えて思わぬ壁も。「しかも当時はまだ方言がきつかったので、自分の話していることが周りに理解してもらえず、何度も聞き返されるのも嫌になって、初めの1年間くらいは無口でしたね。」

そんな状況も跳ね除け黙々と地道な努力を続け、今では伝統製造課の中堅どころとしてなくてはならない存在だ。

瞬時の判断が問われる「水晒し」の作業

そんな木下が得意とするのが「水晒し」。採取した魚の身を水に晒し、弾力を阻害する酵素などの水溶性成分や、臭みのもとになる脂を水で洗い流し、精製された身にする作業だ。約15kgの魚に対して同量程度の水を入れ、かき混ぜながら魚と魚をこすり合わせて脂を浮かせ、そこに水を足して不要物を浮き上がらせる。

「いらないものは徹底的に取り除きたいのですが、過剰に水に晒してしまうと魚本来の旨味も一緒に流れてしまいます。魚の状態に応じて、水量、回数、時間、そして混ぜる力加減をその都度微調整しなくてはなりません。」

魚の状態は、魚の種類はもちろん、魚のサイズや季節によっても微妙に変わってくるのだそう。通常1〜2回の晒し作業も、脂ののりが多いと3回と時間がかかります。


写真上:水晒しを繰り返し、水が白く透明になっていく

 

「そうは言ってもスピードも大事。後の工程の職人を待たせてはいけませんからね。悩んでいる時間はないんです。」
瞬時の判断は長年の経験が成せる技。毎日の積み重ねでようやく感覚がつかめてくるのだとか。

この絶妙な技術ともうひとつ、工程を大きく左右するのが、晒しに使う水の質。鈴廣では、箱根百年水と呼ばれる小田原の地下水を使用している。この水は、富士山や箱根、その周辺の山々に降った雨が、地中で何十年もかけてろ過されたもの。ほどよく含まれたカルシウムやマグネシウムなどのミネラル分が、魚の身の余分な成分を洗い流し、かまぼこを白く美しくするのだそう。

「これが小田原でおいしいかまぼこができる所以なんですよ。」

 

鈴廣のかまぼこが世界一!

木下はプライベートでは2児の子煩悩な父親の顔をもつ。奥様はなんと同じ部署の先輩という社内恋愛なのだとか。

「子供たちもかまぼこは大好きですね。10歳の娘は『リカちゃん ハートかまぼこ』、4歳の息子は『かまぼこトミカ』に目がありません。」

最後に鈴廣の魅力を聞くと、背筋を正し「鈴廣のかまぼこが世界一だと思っています」と、キッパリ。静かな瞳の奥には、自信と誇りがみなぎっていた。

Written BY Tomoyo Tsuchiya

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