2022 年12月10日から開催されている「板わさをたのしむin浅草」。浅草エリアにある多彩な飲食店で「鈴廣のかまぼこを使ったお料理」を味わえる期間限定のキャンペーンです。今回は、参加店のひとつ「とんかつゆたか」を訪問。三代目の店主・稲吉 修(いなよし・おさむ) さんに、初代のころから受け継ぐ「胃もたれしないとんかつ」の秘密や、なぜ鈴廣のかまぼこを提供しているのかなどについて伺いました。
2022 年12月10日から開催されている「板わさをたのしむin浅草」。浅草エリアにある多彩な飲食店で「鈴廣のかまぼこを使ったお料理」を味わえる期間限定のキャンペーンです。今回は、参加店のひとつ「とんかつゆたか」を訪問。三代目の店主・稲吉 修(いなよし・おさむ) さんに、初代のころから受け継ぐ「胃もたれしないとんかつ」の秘密や、なぜ鈴廣のかまぼこを提供しているのかなどについて伺いました。
―― 創業は、まだ戦後間もないころだったそうですね。
当店は1945(昭和20)年、終戦直後の浅草で創業しました。ここから観音様(浅草寺)が見渡せるくらいの焼け野原だったこの地で、いわゆるバラックのような建物で大衆食堂として営業。冬はカウンターに雪が舞い落ちるほど簡素な店だったと聞いています。
その後、初代の妻である私の母がさまざまなお店を巡って研究を重ね、だんだんとメニューを絞っていき、とんかつ専門店となりました。
―― 70年以上の歴史の中で継承してきた「ゆたか」さんの味の特徴は。
当店のとんかつは、自然な甘みが感じられ、胃もたれしにくいのが特徴です。老若男女、どなたでもおいしく召し上がっていただけるよう、初代から受け継いできた味です。年配の女性でも「ここのかつは、柔らかくて胃もたれしない」と言って、ロースかつを残さず召し上がっていかれますよ。
―― 鈴廣のかまぼこを選んでいただいている理由をお聞かせください。
初代は「材料は一級品でなければいけない」という料理人でした。そんな父が一級品と認め、創業間もない昭和20年代から使っているかまぼこが鈴廣です。私が幼少のころ、「小板一枚買ってきて」と言われ、当時店舗裏にあった魚屋さんにお使いに行ったことを覚えています。
鈴廣といえば、弾力・歯ごたえのある上質なかまぼこ。粉っぽさもなく、しっかり魚の味がしますよね。おかげで、板わさは当店で長年愛されているメニュー。お客さまも「やっぱりお店で食べるかまぼこは違うね」と言ってくださいますよ。
―― ありがとうございます。贅沢に厚切りで提供いただいているんですね。それにしても、板わさが食べられるとんかつ屋さんは珍しい気がします。
そうですね。当店はお酒を飲まれるお客さまが多くて、「かつ前」として一品料理を用意しています。板わさのほかには、塩辛やまぐろのぬた、あんきもなども人気。お酒と一緒に楽しんだ後、締めにとんかつを召し上がる方が多いです。
―― 板わさとの相性がいいのは、どんな日本酒ですか?
「黒松白鹿 灘仕込」です。黒松白鹿は、かつて海軍御用達だった由緒あるお酒。初代の頃から扱っています。味わいはやや辛口で、さっぱりとした飲み口が特徴。鈴廣のかまぼことの相性はもちろん、締めのとんかつにも合うお酒です。
――胃もたれしないとんかつを提供するためには、やはり素材が大切だそうですね。
豚肉は、甘くて風味の良いブランド豚「やまと豚」を使用。パン粉は、国産小麦で焼き上げたパンを使ってお店でつくっています。じつは、ふつうのパン粉のほうがカリッと揚がるし、衣の目も立って格好がいい。それでも国産を使うのは、衣が甘く仕上がり、目が立ちすぎずサクッとした食感になるからなんです。
揚げ油は綿実油(めんじつゆ)。とんかつ屋さんでよく使われるラードは、お肉から衣が剥がれにくく、味にコクが出ますが、凝固しやすく胸焼けや胃もたれにつながりやすい面があります。綿実油は高価で、揚げるのに技術も必要ですが、さっぱりした食感・味わいのかつを揚げるためには欠かせません。
―― 揚げ方にも技術が必要なんですね。
当店ではフライヤーを使わず、頻繁に新しい油に交換しながら鍋で揚げています。油の温度やかつの見た目、箸で持ち上げた感覚を頼りに、柔らかさと甘みを残しながら、しっかり火を通すようにしています。
―― ご飯も一粒ひと粒が立っていて、ついついおかわりしたくなります。
ご飯は釜で直火炊きしています。いっぺんに大量に炊くとお米が潰れてしまいますから、一度に炊くのは5合、多いときでも1升までにしています。炊きたてを提供するために頻繁に炊飯しています。
また、キャベツは新鮮なものを手作業で千切りしています。みずみずしさとパリッとした食感をお楽しみください。
―― 浅草という街の良いところを教えてください。
浅草は古来「観音様より高いものを建てたらいけない」という雰囲気があって、昔ながらの街並みが残っています。また催し物が多く、ほおづき市や植木市、三社祭にサンバカーニバルなど「いつ来ても何かやっている街」でもあります。
浅草といえば、人力車や和服を着た女性が行き交う街というイメージがあるかもしれません。でもそれは、東京スカイツリーができて観光客が増えたころから見られるようになったんですよ。そういう意味では、外からいらっしゃる方たちが浅草の新しい文化を生み出しているんだと思います。
―― 伝統と革新、両方の要素が詰まった街なんですね。最後に、読者のみなさんにひとことお願いします。
当店は、初代のころに建てた古いつくりのお店ですが、清掃を徹底し、接客の基本的なところをおろそかにせず、お越しいただいた方々に楽しんでいただける空間を目指しています。そしてこれからも、70年以上受け継いだ味をしっかり守っていきますので、ぜひ足を運んでいただければと思います。
大学卒業後に建設会社でキャリアを積み、飲食店を経営していた稲吉さん。2010年ごろ家業を継ぎ、多様な経験と広い視野を生かしながら、伝統の味を守っています。「板わさをたのしむin浅草」では、浅草エリアの28店舗 で個性豊かなかまぼこ料理を味わえます。みなさんもぜひ、足を運んでみてくださいね(開催は2月28日(火)まで) 。
■店舗情報
とんかつ ゆたか
〒111-0032 東京都台東区浅草1-15-9(東京メトロ銀座線 浅草駅6番出口・東武スカイツリーライン 浅草駅正面改札より徒歩約4分/都営浅草線 浅草駅A4出口より徒歩約5分)
TEL 03-3841-7433
営業時間 11:30~14:00(L.O.)/17:00~20:00 (L.O. ) ※新型コロナウイルス感染拡大状況により変更の場合あり
定休日 水曜・木曜
公式HP:http://www.tonkatu-yutaka-asakusa.com