相模湾の港町であり、箱根火山や丹沢山地などの山々に囲まれている小田原は、四季を通じて自然の恵みが豊富です。相模湾からあがる海産物はもちろん、田んぼや畑の広がる平地からは米や野菜、陽の当たる丘陵地帯からは柑橘類、山に入れば鬱蒼とした森もあり、きのこや山菜などが採れます。
相模湾の港町であり、箱根火山や丹沢山地などの山々に囲まれている小田原は、四季を通じて自然の恵みが豊富です。相模湾からあがる海産物はもちろん、田んぼや畑の広がる平地からは米や野菜、陽の当たる丘陵地帯からは柑橘類、山に入れば鬱蒼とした森もあり、きのこや山菜などが採れます。
そんな小田原の産物が土台となる鈴廣の料理は、地元の食材生産者との繋がりが不可欠。鈴廣かまぼこの里内にある食事処「千世倭樓」料理長の澤瀬文男さんの献立づくりも、地元生産者から日々刺激を受けています。二代に渡り小田原野菜を作っている廣川農園の廣川康治さんも、刺激し合う一人。小田原の土地の魅力を、料理人と生産者の2人に伺いました。
朝、調理場に届けられる採れたての地元野菜を見てから、その日の献立を考えるという澤瀬料理長。「新鮮で質の高い素材がいつでも手に入るのは、昔から地産地消がごく自然に行われている小田原ならでは。料理人にとって、何にも代えがたい喜びです。廣川さんには週に2度ほど野菜を届けていただく際に、野菜の育った状態や特徴を聞きます。届いたものが旬の走りか盛りか名残かを見極めつつ、瑞々しいズッキーニなら食感を生かしてピクルスに、まるまる太った盛りのなすなら田楽にと、野菜を活かせる内容で献立を組んでいきます」。
ときには、朝の会話が料理に新しいヒントをくれることも。「お願いした野菜のほかにも、新しい野菜を紹介してもらうこともあります。今はバターナッツかぼちゃのメニューを検討中です」。
ちなみに、調理場で使う水も、箱根富士丹沢連山で育まれた名水「箱根百年水」。「野菜が育てられたのと同じミネラル豊富な『箱根百年水』でだしも引く。かまぼこ作りにも使われているこの水は、私たち鈴廣の味の要です」。
廣川康治さんで二代目になる廣川農園は、鈴廣と同じ小田原市風祭にあり、すぐに行き来できる距離。玉ねぎやじゃがいも、お茶、里芋や八頭など以前から作っている野菜以外にも、最近では紅芯大根や青パパイヤ、バターナッツかぼちゃなど新しいものも含め、現在約90種を少量多品種で作っています。
「小田原の畑は、海に近いことが特長です。冬でも空気が冷え込みすぎないし、海面にあたる光の強さで野菜の育ちがよくなる。箱根富士丹沢連山で育まれた伏流水が、地下水として土を潤すので水には困りません。鈴廣の魚肥や、厚木の酪農家からいただく堆肥などを肥料として土づくりをしています。採れた野菜の出来は、やはり直に見せにいって感想を伺う方が早い。料理長から直接感想を聞けるのも嬉しいし、逆に今、どんなものが欲しいのかを伺うことで、今後の野菜づくりの参考にもなる。短い時間でも、作る人と使う人の意思疎通が気軽にできるって、気持ちがいいものです」
気候、水、自然。小田原に暮らす人々も野菜などの食材も、みな同じ環境のもとで育っている。小田原に長く続く地産地消の食文化は、そんな地続きの関係性があってこその恵みと言えます。
text by Saori Bada / photographs by Hiyori Ikai
この記事を書いた人
馬田草織
編集者・ポルトガル料理研究家。料理雑誌などで編集者・ライターとして活躍するかたわら、自宅でポルトガル料理教室を主宰。Web「cakes」にてお酒に合うポルトガル料理を紹介する「ポルトガル食堂」を連載中。
近著『ムイトボン!ポルトガルを食べる旅』(産業編集センター)など著書多数。
http://badasaori.blogspot.com/