高齢者がさまざまな理由から食事が十分にとれなくなると、食欲が低下し低栄養を招きます。低栄養は寝たきりや要介護のリスクを高めるため、早めの対策が必要です。この記事では高齢者の食欲低下の原因と、食べられないときの回復方法を紹介します。
高齢者が食べられない原因はさまざまなものがあり、食べられない状態が長く続くことで食欲も徐々に低下します。ここでは、高齢者が食べられない原因について解説します。
高齢者は、食べ物を噛む咀嚼機能や飲み込む嚥下機能が衰え、これまでより食べにくくなります。さらに、うまく飲み込めずに食べ物が気管に入ってしまう「誤嚥」を引き起こすと、肺炎の要因になりかねません。
このような状況から、食べることを楽しめなくなったり、誤嚥への不安を感じたりすることで、食欲の低下につながります。
高齢者は加齢によって胃腸の機能が低下し、消化不良や下痢を起こしやすくなります。また腸の動きが悪くなり、排便を促す力も弱くなることから、便秘もよく見られます。これも食事への不安や食欲低下を引き起こす原因です。
高齢者は、舌にある味を感じる細胞の数が減っているため、味を感じにくい状態です。また、食べ物の風味には匂いも大きく影響していますが、嗅覚も加齢によって低下するため、さらに味を感じにくくなります。
さらに、老化により食べ物が見えにくくなることや、白内障によって食べ物が黄色がかって見えるようになることも、食欲が低下する要因のひとつといわれています。
加齢に伴い筋力が低下すると、外出が面倒になり、活動量も低下しがちです。高齢者はエネルギーの必要量が減り、お腹も空かなくなるため、食欲低下につながってしまうのです。
年齢を重ねるにつれて、周囲の人との死別や入退院などの環境の変化が増え、ストレスから食欲を失う場合があります。また一人暮らしになると、孤独感や一人で食べることの寂しさから食欲の低下を引き起こしやすくなります。
高齢者が一人暮らしや閉じこもりで外に出なくなると、食事のための買い物や準備が億劫になり、食事への意欲の低下につながります。
高齢者は病気の治療をしている人も多いため、薬の副作用による影響も考えられます。鎮痛剤や心不全の治療薬、抗うつ薬、認知症治療薬など、さまざまな薬が食欲不振の原因となります。
無気力・無関心状態になり感情が乏しくなる「アパシー」は、認知症の症状のひとつです。アパシーがみられる高齢者では、食事への意欲も失われ、食事量も減少してしまいます。また、食べ物を認識できなくなる、箸などをうまく使えなくなることも食欲低下の原因です。
食欲が低下して食べられない状態が長く続くと、エネルギーやタンパク質が不足し低栄養を引き起こします。高齢者にとって低栄養は、さまざまな健康障害のリスクにつながり、日常生活にも影響します。低栄養の症状と影響について、詳しく見ていきましょう。
食事からの栄養や水分が不足することで、以下の症状が起こります。
高齢者が低栄養になると、筋肉量が減ることで転倒しやすくなり、骨折のリスクが増加します。高齢者の骨折で特に問題になるのは、ももの付け根の骨折です。寝たきりや要介護状態を引き起こす要因になっています。
また低栄養によって感染症にかかりやすくなる、褥瘡(床ずれ)ができやすく治りにくくなることも知られています。
低栄養状態とは、すなわちタンパク質が不足している状態といえます。タンパク質は筋肉を作るために必要な栄養素で、高齢者がタンパク質不足になると、筋肉量が減少し、運動機能の衰えを引き起こします。転倒や骨折のリスクが高まるため、筋肉量の減少は高齢者にとって大きな問題です。
加齢とともに筋タンパクの合成が遅くなるため、高齢者ではよりタンパク質摂取を心がけることが必要です。
食べられない高齢者に少しでも食べてもらうために、周囲や家族にできることはどのようなものがあるでしょうか。ここでは、4つの観点から食欲を回復させるための対策を紹介します。
まず紹介する対策は、食欲がない高齢者にとっても負担なく食べられるよう、食事を改善する方法です。
本人の咀嚼能力に合った食事にしましょう。軟らかい食材を選び、繊維を断つように切り、よく煮込むと食べやすくなります。細かく刻む、ミキサーにかけるなどの方法もあります。
また、汁物などの液体は誤嚥を起こしやすいため、とろみ剤を使って適度にとろみをつけることで飲み込みやすくなります。
高齢者は水を飲む際にもむせやすくなるため、水分摂取をすすめても飲まない場合があり、脱水も心配な要素となります。水も同様にとろみをつけたり、ゼリーにしたりすることで飲み込みやすくなります。
食べ物や飲み物を本人の咀嚼・嚥下機能に合わせて調節するのは手間がかかり、家族の負担になる場合もあります。軟らかさが調整された市販の介護食や、水分補給ゼリーなどを利用するのも良いでしょう。
胃腸に負荷をかけずに食べられるよう、消化の良い食事にするのも大切です。脂質が少なく、よく煮込んだ温かい食事がおすすめです。おかゆや雑炊、うどん、そうめん、茶碗蒸しなどを取り入れてみましょう。
好きなものや食べたいものなど、少しでも食欲が湧くものを食べてもらい、食べる楽しさを感じさせるのも一手です。いくつか選択肢を用意し、食べられそうなものを選んでもらうなど、本人の意欲を高められるよう工夫してみましょう。
ただし、味が濃い料理を好む場合は、塩分過多になり血圧が高くなる恐れがあります。濃い味の料理は一品だけにする、香辛料やだしを上手に使うなど、減塩の工夫が必要です。
食事の内容が同じでも、食べる方法を変えると気分が変わり、食欲の回復が見込めます。食事の雰囲気を変えるための対策を紹介します。
一人での食事は味気なく、食欲も湧きにくいものです。家族や介護する人、仲の良い人など、誰かと一緒に会話を楽しみながら食べましょう。また、介護施設や地域の食事サービスを利用するのもよいでしょう。
そのほか、明るい音楽をかける、暖色系のランチョンマットを使う、外食を利用するなどの方法もおすすめです。
初めからたくさんの料理を並べると、本人にプレッシャーを与えてしまいます。まずは少量を盛り付け、品数も減らして出しましょう。ご飯は小さいおにぎりにすると食べやすくもなるのでおすすめです。初めに出した量を食べきれたら、次の料理を追加します。
料理の見た目も食欲に影響します。特に細かく刻んだりミキサーにかけたりすると、咀嚼の負担はなくなりますが、見た目が悪くなりかえって食欲を失う可能性があります。
つなぎやゲル化剤で元の食品に近い形に固める、ソースなどの調味料はあとからかけるなどの方法で、見た目を良くする工夫をしてみましょう。
食事だけでなく、生活面を改善することでも食欲の回復が見込めます。
生活リズムを整えることで活動量が増えやすくなり、食欲の回復につながります。規則正しい生活を心がけ、食事も3食決まった時間に提供しましょう。食事回数が減ると栄養も不足しやすくなるため、少しずつでも3食食べることも大切です。
食事の内容や食べ方で対策しても食欲が回復せず、十分に食べられない場合は、栄養補助食品を取り入れる方法もあります。
栄養補助食品は、少量で効率よく栄養がとれるように設計されています。飲料やゼリー、錠剤型やカプセルのサプリメントなど、さまざまな形態があり、含まれる栄養も商品ごとに異なります。目的に合ったものや、本人が取り入れやすいものを選ぶとよいでしょう。
タンパク質不足が気になる場合は、「サカナのちから S for シニア」がおすすめです。吸収効率の高い魚肉ペプチドが配合されているため、良質なタンパク質を効率よく摂取できます。小粒タイプで高齢者でも飲みやすいサプリメントです。
「サカナのちからS」は、タンパク質不足が気になる高齢者におすすめのサプリ。食が細くなり、食事からの栄養補給がなかなかできていない…と感じていませんか?サプリメントで効率よく補給して、日々の活力につなげましょう。
嚥下機能が低下していると、錠剤型のサプリメントは飲み込みにくさを感じることもあります。その場合は、ゼリーやプリン、ヨーグルトと一緒に飲み込むとスムーズです。市販の服薬補助ゼリーを使用してもよいでしょう。また、少しうつむいた姿勢で飲むと飲み込みやすくなります。
食欲がなく食べられない状態が続くと、周囲や家族としては心配になるでしょう。しかし、焦りは禁物です。せっかくの対策が逆効果にならないよう、注意したいポイントをご紹介します。
本人が食べない、飲まないのに繰り返しすすめることや、食べないことを指摘するような声かけは避けましょう。食事が大きな負担になり、食欲がさらに低下しかねません。プレッシャーを与えないように、できる方法から取り入れていくとよいでしょう。
本人の状態によっては、デイサービスや訪問看護の利用を検討するのもよいでしょう。食事介助や嚥下訓練、食事形態や栄養補助食品についての助言を受けられます。
がんや胃腸の病気、ストレスが原因の精神疾患、薬の副作用など、病気が理由で食欲が低下することもあります。その場合は病気の治療を優先し、主治医と相談しながら治療を進め、回復を目指しましょう。
高齢者は体や環境のさまざまな変化から、食事がとりにくくなり、徐々に食欲も低下しやすくなります。食べられない状態が長く続くと低栄養を引き起こし、日常生活にも影響を及ぼすため、早めの対策が必要です。
本人にとって無理のない範囲で、食べやすいものや食べたくなる環境を作ることが大切です。市販の介護食や栄養補助食品、デイサービスや訪問看護なども利用し、家族の負担も減らしながら食欲回復に向けて取り組んでいきましょう。