2024.02.29
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ペプチドについて知ろう | タンパク質を最も効率よく補給する方法

タンパク質の必要性

DNAは生物の設計図と呼ばれることもありますが、これはDNAに含まれる遺伝子が「タンパク質の設計図」であることに由来しています。
遺伝子には20種類のアミノ酸の並び順が記されており、アミノ酸の並び方と数でそれぞれのタンパク質の形と役割が決まります。タンパク質は筋肉や臓器、皮膚、骨、毛髪、ホルモンや抗体など体の構成成分の材料として使われ、水分以外の人体の組成のうち半分を占めており、体を作るために一番大切な栄養素はタンパク質だと言っても過言ではないと言えます。
プロテイン(Protein)の語源がギリシア語で「最も大切なもの」を表すプロティオス(Proteios)であることも納得できますね。

もちろんタンパク質以外にも体に良い成分は数多く存在していますが、それらの良い効果を最大限に発揮するためにも、まずはタンパク質を摂取して、しっかりと体の基礎を作ることが健康的な生活を送る上で大切なことではないでしょうか。

タンパク質、ペプチド、アミノ酸

上述したようにタンパク質はDNAの遺伝情報を基に作られ、その最小構成単位がアミノ酸です。
自然界にアミノ酸は500種類程度存在していますが、タンパク質の設計図である遺伝子に情報が記されているアミノ酸はわずか20種類であり、これらは構成アミノ酸と呼ばれています。
構成アミノ酸が鎖状につながっていくことでタンパク質が出来上がり、アミノ酸の数や種類によって性質の異なるタンパク質が生み出されます。単純計算ではアミノ酸二つがつながる時の組み合わせは20×20=400通り、三つだと20×20×20=8000通りで多種多様なタンパク質が作られることが想像できるのではないでしょうか。実際にヒトの場合は10万種以上のタンパク質が存在しています。

タンパク質の定義はアミノ酸の数(例えば50個以上など)で分けられることもありますが、決まった形(立体構造)を持つものがタンパク質であるという定義に従うと、世界最小のものはアミノ酸10個からなる「シニョリン」です。
逆に、最大のタンパク質は34,000個以上ものアミノ酸が繋がった「タイチン(コネクチン)」という筋肉の収縮に関わる巨大タンパク質であり、その正式名称はアルファベットで約190,000文字で、語源がギリシア神話の巨人タイタンであることも頷けます。
ちなみに最新の研究ではOmnitrophotaという細菌の遺伝情報から約85,000個のアミノ酸から成るタンパク質の存在が示唆されており、今後の研究展開が注目されています。

ペプチドは主にアミノ酸が2個から数十個繋がったものが多く、DNAの情報を基に生体内で合成されるホルモンやシグナル伝達物質など特定の役割を持ったペプチドの他に、タンパク質が分解されて生じるものもあり、種類は無限とも言えます。
これはタンパク質中のアミノ酸同士の結合が1ヵ所切断されれば2つのペプチド、2ヵ所切断されれば3つのペプチド、というように切断された数だけ生成されるペプチドの種類は増えるためです。
栄養素としてタンパク質を摂取した時には胃や腸の消化酵素により、タンパク質が分解されて最終的にアミノ酸にまで分解されますが、その途中過程で無数のペプチドが産生されています。後述しますが、元のタンパク質の役割とは全く関係のない血圧上昇抑制作用や抗酸化活性をもつ機能性ペプチドが生み出されてくることも生物の不思議な性質だと考えられます。

消化、吸収の仕組み

体を構成しているタンパク質は一見変化がないように見えますが、実は正常な機能を保つために日々合成と分解が繰り返され、新しく入れ替わっています。常にタンパク質を合成し続けるためにはその原料であるアミノ酸が必要ですが、これはアミノ酸プールと呼ばれる血液や骨格筋中に蓄えられた遊離アミノ酸が使われています。
主にタンパク質が分解されて生じたアミノ酸がタンパク質の再合成に使われますが、それでも不足する分は食事から補う必要があります。アミノ酸の供給量が不足すると筋肉の分解が進んだり、免疫系が正常に働かなくなったりして体調に異変が生じることもあるため、毎日の食事で良質なタンパク質を摂取することが大切ですね。

食事から摂取したタンパク質が消化、吸収される仕組みを解説すると、まずはタンパク質を含む食品を咀嚼し、細かく砕くことから始まります。
咀嚼により表面積が増大した食塊は体内での消化を受けやすい状態へと変化します。小さな食塊が胃に到達すると胃液の強い酸性によりタンパク質が変性し、タンパク質分解酵素であるペプシンの働きにより、アミノ酸同士の結合が切断され、よりサイズの小さいタンパク質やペプチドへと低分子化されます。
続いて膵液中に含まれるトリプシンやキモトリプシン、カルボキシペプチダーゼなどのタンパク質分解酵素によりさらに低分子化され、最終的には小腸粘膜中のアミノペプチダーゼやジペプチダーゼにより遊離アミノ酸や低分子ペプチドにまで分解されて体内へ吸収されます。
一昔前まではアミノ酸まで分解されないと体内へは吸収されないとされていましたが、ペプチドトランスポーターの発見によりアミノ酸が2個つながったジペプチドおよび3個つながったトリペプチドがそのままの状態で吸収される場合があることも明らかにされており、解釈が変わってきました。

食事で摂取されたタンパク質は胃や腸で消化された後、小腸粘膜上皮細胞から体内へ吸収されます。アミノ酸はアミノ酸トランスポーターを介して細胞内に取り込まれますが、多くのアミノ酸ではグルコースと同じようにナトリウムイオン(Na+)と一緒に細胞内へ入ります(共輸送)。
この基本的な吸収メカニズムは日常生活や運動時などに適度な食塩摂取が必要であることを示しており、栄養学的にも重要な基本知識ですね。

ジおよびトリペプチドはペプチドトランスポーターを介して細胞内へ取り込まれますが、これは水素イオン(H+)依存的な共輸送です。吸収されたこれらのペプチドは細胞内のペプチダーゼにより遊離アミノ酸にまで分解され、アミノ酸のまま取り込まれたものと一緒に門脈を経て肝臓へと運ばれます。

以上のようにタンパク質が消化吸収され、アミノ酸が再びタンパク質合成の原料として利用されることが人間の生命活動にはとても大切です。
この代謝経路をスムーズに動かすためにもタンパク質の消化されやすさは重要な要素であると言えます。

ペプチドで摂取するメリット

タンパク質、ペプチド、アミノ酸と様々な状態がありますが、ペプチドで体内へ摂取するメリットについて考えてみたいと思います。
タンパク質と比べた時のペプチドの利点は予備消化が完了していることが挙げられます。本来であればタンパク質は胃や腸での消化を経て体に吸収されやすい形に変化していきますが、ペプチドの場合はすでに細かく断片化された状態ですので、タンパク質よりも速やかに消化されるという特徴を持っています。
また、アミノ酸と比べた場合は、上述したように小腸からの吸収時にアミノ酸は一つずつ取り込まれるのに対して、ジペプチドやトリペプチドはアミノ酸が2,3個つながった状態で一気に細胞内に取り込まれるため、より吸収効率が高いと言えます。

ペプチドに期待される健康増進効果

ペプチドは栄養的な利点だけではなく、健康機能性の面でも強みを発揮します。例えば、ペプチドに含まれるアミノ酸の量と同等のアミノ酸混合物とペプチドの機能性を比較した実験では、ペプチドの方が10倍程度抗酸化活性が高いことが証明されています。

魚肉ペプチドには抗酸化作用がある(魚肉ペプチドの可能性5)

数字上のアミノ酸量はどちらも同じですが、機能性の面では全く異なる結果が得られており、ペプチドの優位性が際立ちます。
また、タンパク質と比べた場合にも機能性の面ではペプチドに優位性があることが分かっています。例えば、魚のタンパク質を人工胃液(ペプシン溶液)で消化する実験では、消化が進むほど、つまりタンパク質が分解されてペプチドの量が増えれば増えるほど、血圧上昇抑制作用の指標であるアンジオテンシンI変換酵素(ACE)阻害活性が高まります。
これは元のタンパク質の時には発揮されていなかった新たな機能性がペプチドに変化することで発現することを示しています。
このような観点から数多くのペプチドの機能性に関する研究が行われてきました。魚タンパク質由来の魚肉ペプチドは非常に抗酸化活性の高いジペプチドを含み、抗疲労や筋タンパク質増加、筋グリコーゲン増加、鉄およびカルシウム吸収促進、骨密度増加、脂質代謝改善、血圧低下、腫瘍重量増加抑制、血中アルブミン量増加、血中ヘモグロビン増加による血流改善作用など多くの健康機能性を示すことが知られています。アミノ酸よりも消化吸収効率が高く、タンパク質よりも多くの機能性を有するペプチドの摂取は健康増進効果が期待できると考えられます。

魚肉たんぱく研究所 所長植木暢彦
1977年生まれ。東京大学大学院農学生命科学専攻 水圏生物科学専攻 博士課程修了。魚貯蔵中の脂質過酸化抑制、マグロの変色メカニズム解明、ペプチドのシグナル伝達経路解明などの研究を経て、魚の基礎研究を続けたいと魚肉たんぱく研究所へ移籍。現在は、伝統的職人技の原理解明、未利用資源の有効活用、魚肉たんぱく質を用いた新規シーズ開発をテーマに研究を行っている。

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