カフェにはふたつの種類がある。ひとつは、提供する商品そのものに魅力があり、それを目当てに人が集まる場所。もうひとつは、空間に引き寄せられた人々が集い、つながりの輪が広がる場所。今回紹介する「TEA FACTORY如春園」は、その両方を兼ね備える。この記事では如春園で提供される商品の魅力と、小田原の地域コミュニティの場としての価値について紹介していく。
お茶工房であり、カフェであり、イベントスペースでもある
オーナーと客の「好き」がその場所を変えていく
小田原駅から箱根登山電車に乗ってひと駅目、箱根板橋駅に人が集うカフェがある。都会の喧噪から離れたこの駅で、小路を進んで行くと、静かな住宅街に白くたなびくのれんが見える。店主の小倉友哉・純子夫婦が自分たちの経験と「やりたい」を詰め込んでつくった「TEA FACTORY如春園」だ。
ここは、小田原周辺の茶畑で農薬を一切使わない茶葉から、緑茶と日本食に合う紅茶を生産しているお茶屋さん。お茶工房であるが、カレーやスイーツなどのカフェメニューの提供、コンサートや料理教室などのイベントスペースとしての開放もしている、一風変わった場所なんだそう。
「養之如春」。すべてはその言葉からはじまった。店の中央に掲げてあるこの言葉は、「何事であれ、もの事を為すには、春の陽光が植物を育てるようにゆっくり為すべきだ」という意味であり、これが如春園の根底にあるのだそう。その言葉のように優しい雰囲気が漂うこの店には、そこに住む人たちの憩いの場となっている。
小倉夫婦の「好き」が凝縮された
如春園ならではの味わい
如春園で体験できる味わいはふたつある。ひとつめは、自分たちで育てた茶葉からつくる緑茶と紅茶。
ふたりが栽培する茶葉は完全無農薬。そこには、安全なものを届けたいという想いと、自然を大切にする気持ちがある。天候や病害虫などに対しても、人間がコントールするのではなく、自然の摂理を重んじ、上手くつきあいながら楽しむ心があるのだ。
自分たちで育てた茶葉をお店の工房で発酵させたこるゆぎ紅茶は、自然で柔らかな風味が特徴の和紅茶として注目されている。インドやスリランカで紅茶作りを学んできた友哉さんが、日本食に合うように試行錯誤して生み出した一品だ。おやつ時の店内は、紅茶と手作りのスイーツを楽しむ人で賑わいを見せる。
もうひとつはスパイスカレーである。ポークやチキン、魚介などの日替わりカレーを3種類1度に食べられる「ミールス」がおすすめだ。カレーの他に5種類の付け合わせもついており、カレーと混ぜながら食べることで、味の変化が楽しめる。様々なスパイスを組み合わせた本格的な味わいで、如春園にカレーを食べにくるファンも多いのだとか。
集まる人が変われば
カフェの空気もまた変わる
如春園はただのカフェではない。時にそこはイベント会場になり、ジャズやピアノ、ラテン音楽のミニコンサートが開かれて、地域の人がリラックスできる場所となる。さらには地元の飲食店主催のお料理教室が開催されることも。集まる人が変われば雰囲気も変わり、そこにはいつもと違う如春園が生まれる。
如春園が愛されるのにはもうひとつ理由がある。それは、趣のある建物だ。かつて地元で100年以上愛された豆腐屋「下田豆腐店」の店舗をできるだけ変えずにリノベーションし、人が集まる場所にしているのだそう。昔ながらの「出桁造り」の建物が出す雰囲気が、そこで生まれる音を優しく包み込み、心地よい温かさを一層際立たせているのではないだろうか。
さまざまな文化や歴史が混じりあう如春園。その価値を決めるのは訪れる人それぞれなのだ。
小田原という地域規模だからこそ成立した
「カフェ」という単位のコミュニティ
小田原に住む人々は温かく、距離が近い、とふたりは言う。出かけると知り合いに会うし、会いたい人にすぐに会える。友達の友達が知り合いだったり、この人ステキだなという人は意外と近くにいて、気がついたら友達になっていることもあるのだとか。
小倉さん夫婦は東京から小田原に引っ越してきたいわば新参者。そんな彼らも小田原という地になじみ、如春園がそこで暮らす人たちの憩いの場となっている。これは、ふたりの何でも迎え入れる姿勢と、なにより小田原で暮らす人々の結びつきの強さがあるからではないだろうか。
如春園にいけば出会いが生まれる。行く度に異なる顔を見せるそんな場所は、更に愛され、地域のとっておきの場所になるだろう。
如春園
〒250-0034
神奈川県小田原市板橋636
電話:0465-20-4361
営業時間:ランチ:11:30~14:00
喫茶:14:00~17:00
定休日:日曜日・月曜日