紙と茶、そして海苔を主に取り扱い、2021年に創業360年を迎えた江嶋。17代にわたり小田原の地で商いを続ける彼らがなぜこんなにも長い歴史を紡げたのか。そして、そんな彼らが今後目指すものとは?
不易流行。本質は変えずに時代のニーズに応えてきたライフスタイルショップ
ときは1661年。江戸初期の寛文元年に、箱根関所の役人だった江嶋権兵衛がはじめた商いが江嶋のはじまり。当初は製塩業を営んでいたものの、江戸中期には社会的なニーズが高まっていた和紙の行商も手掛けるようになる。遠方にも和紙を売りに行くようになると、様々な商材を目にすることになったのだろう。出先の静岡県から茶を持ち帰り、今の「紙・茶・海苔の江嶋」のスタイルが少しずつ出来上がっていった。
江嶋といえば、伝統的な出桁造りでつくられた趣深い店舗が有名だ。これは1923年に発生した関東大震災の後、15代目平八(当主は代々「平八」の名を襲名)が全国から最良の材料を集めて1928年に再建した建物が原型だという。
2019年には内装をリニューアル。店内が現代的なライフスタイルショップになり、歴史的な風情ある建物の外観との変化がまた面白い。伝統と時代のニーズを融合させることのできる江嶋の強みを瞬間に理解できるはずだ。
ハイエンドセレクトショップとも言えるセンス
主に取り扱っているのは紙と茶、そして海苔。と聞くと、渋めの商品が多いと思いがちだが、実際に訪れてみると予想以上にそうではないことに驚くはず。
たとえば、和紙でいうならば、友禅紙や雲竜紙などの日本の伝統技法でつくられたものなのに、まるでミッドセンチュリーモダンを思わせるデザインのものや、現代的なインテリアに合うテーブルクロスとしても使えるようなものも数多くセレクトされている。
茶に関しても、本格的なものはもちろんのこと、気軽に楽しめる水出しのものや、ハイエンドなセレクトショップが好みそうな茶器など、20~30代の生活感度の高い若者も買い物を楽しめるような陳列がなされているのだ。
彼らのポリシーは各時代にあったものを選び、提案し続けること。17代目平八である江島賢さんはこう語る。
「文化や伝統は過去にこだわり過ぎてしまうとそこで止まってしまう。我々のような老舗ほど、旧きもののよいところはそのままに、新しいことにチャレンジし続けていかねばならないと思うんです」と。
新型コロナウイルスに世界が出会う前には海外からの来客も大きく、1854年にパリで創業した紅茶専門店、マリアージュ フレールのバイヤーが視察にきたこともあるのだとか。代々受け継いできた歴史とトレンドをうまく掛け合わせてアウトプットする、それこそが海外にも誇れる江嶋の魅力といえるだろう。
世界を見据えた文化発信に対する真摯な姿勢
江嶋が見る未来は国内だけでなく世界に発信していくことなのだとか。その兆しともいえるわかりやすい例が、オリジナルブレンド茶「江嶋園」や「平八」のパッケージ裏に記載されたQRコード。
そのコードを読み込むと7か国語に対応した茶の正しい飲み方を教えてくれるウェブページに接続される。誰でも理解しやすい簡単な説明とイラストで表現されるクリエイティブは日本人が見てもあらためて深い理解を得られる構造となっている。
本質的に江嶋がつくりあげてきた世界観を理解してもらうためには、日本文化そのものへの理解と一定の作法が必要だが、それをどのように伝えるのかを深く検討した結果がこの仕組みなのだ。
必要とあれば最新テクノロジーすらも駆使するフットワークの軽さと、彼らが保有する充実したコンテンツが今後のどのようなカタチで世界に広がっていくのかが非常に楽しみだ。
街と共存してきた老舗の覚悟
余談だが、関東大震災の復興事業としてはじまった「足柄茶」をはじめるにあたり、お茶づくりの指導員を静岡から現在の山北町に紹介したのは15代目平八。さらに彼は商工会議所やロータリークラブの立ち上げにも尽力した人物としても知られている。
このように江嶋は旧くから自店舗だけでなく、地元を活性化するための活動にも精力を出してきた。
「この街にいまも息づく文化は、いつの時代も地域の皆でつくり、守り続けてきたものなんです。だからこれから先も私たちならではのやり方で、そのための活動をしていきたいと思っています」
と、現当主17代目平八は語る。「文化をつくり、そして守る」。自然とそんな言葉が出てくる江嶋にぜひ一度訪れてみて欲しい。