小田原が東海道の宿場町として隆盛を極めた江戸中期1661年に創業した江嶋。創業当初から紙と茶を取り扱う商店として栄え、当主は代々「平八」を名乗ってきたという。今回紹介するのはその17代目「平八」である江嶋賢さん。360年の歴史を背負う「平八」がどんな人物なのか取材してみた。
いまに至るまでの道のりとは?
「もともとはツアーコンダクターになろうと思っていたんです」
「私には兄がいまして、実は兄が江嶋の17代目を継ぐ予定だったんです。ただ、当時航空関連の仕事をしていた兄がどうしてもそのキャリアを続けたいということになりまして……。急遽父に呼び出されたのが大学生の時でしたかね、そこではじめて『17代目を継げ』と言われたんです。
当時としてはとにかく驚きしかなかったのですが、なんだか断れる話でもなさそうだなと。本当は旅やヒトとのコミュニケーションが好きだったので、ツアーコンダクターになろうと思っていたんです。でも結果として、大学卒業後は17代目を継ぐ前提で父の知人が経営している関西のとあるメーカーで修行というか、社会人としての基礎を学ぶことになったんです。
その後、そこで働きはじめて4年が経った頃に父が亡くなりまして……。最初の頃は母が会社の代表として立ちまわってくれていましたが、実質的にはそこから17代目としてキャリアをスタートした感じですね。
あれから20年以上の時が経ち、さまざまな経験を積んで、あの時17代目としての命を受けたことを今ではとても感謝しています」
客観的に見て、自身はどんなヒト?
「とにかく新しいことにチャレンジして
色々なヒトとコミュニケーションをとることが好きな人間ですかね」
「少年時代はQUEENやKISSといったロックバンドにハマったことがきっかけでバンドをはじめたり、中学高校時代にポジティブな理由で転部を繰り返したり、大学では自らサークルを立ち上げたりしていました。昔からそうなのですが、新しいことをはじめて、そこで出会うヒトと何か新しいことにチャレンジすることが好きなんですよね。
それは大人になってからも変わらずで、今でも異業種の方を含めいろんな方にお会いして何か新しいことができないかと模索しています。新しいコミュニケーションから生まれる新しいモノって、考えるだけでワクワクするじゃないですか。
江嶋の360周年を記念したお茶の商品パッケージは、自分で原案を考えた上で江嶋の改築を担当してくれた建築士の方に依頼してつくったんです。こういったモノっていろんなヒトに会って会話をし続けていないと生まれないと思うんですよね。
360年の歴史があるからこそ、その歴史におごらずこれからも新しいチャレンジをしていくべきだと思いますし」
砂張職人として最も大事にしていること
「テーマは『ハレとケ』。私たちをハブとして
文化の担い手のような存在になれればと」
「もう引退してしまったのですが、私が生まれた頃から江嶋の番頭をつとめていた方がいたんです。その方は60年ほど江嶋に勤めてくださった方なのですが、今でもたまにその方に会いに来てくださるお客様がいらっしゃるんですよね。
そういったお客様に話を聞いていると、主に2種類の来店理由があるとわかったんです。ひとつめは、何かの節目のタイミングで人にものを贈りたいから相談したい、ふたつめは日常生活を送るにあたって何か良いモノがないか相談したい、ということ。
これに気づいたときに我々が代々大事にしてきた『ハレとケ』というテーマの本質的な意味が理解できたんですよね。『ハレ』というのは特別な日、『ケ』というのは日常を意味しているのですが、お店にはどちらの用途の商品も置いているんです。
日本には古くから続く文化があり、それにもとづき様々な行事や節目が存在しているわけなのですが、それぞれが具体的に何を意味しており、その時に何をすべきなのかって、現代においては忘れ去られていることもあると思うんです。つまり、それらを商品を通してお客様にお伝えするのが我々江嶋の役割なんだなと。
たとえば、いまやコンビニでも売っている『のし袋』って、実は誰に渡すのか、どんな時に渡すのかによっては、相手に失礼となってしまうケースがあるんです。だから、私どものお店に来ていただければ状況を細かく教えていただきベストな商品をご案内できる、みたいなことを繰り返していきたいなと。
大げさにいうと、地域の文化を守るという意味でもあるんですが、まずはお客様ひとりひとりに対して、丁寧にコミュニケーションをとって、あの番頭のような存在に自分もなれたらいいなと思っています」
これからの展望
「小田原で続けてきた江嶋ブランドを海外にも伝えていきたいですね」
「江嶋の魅力は商品を販売するだけでなく商品を通して文化を伝えられるところ、と先ほどお伝えしたと思うのですが、この魅力をもっと多くの人に知ってもらえればと思っているんです。
対面で会うことは中々しづらい社会情勢ではありますが、逆にオンライン上で人の輪がさらに広がったという意味では何かを発信しやすい時代でもありますしね。日本だけではなく海外にもそれを伝えていけたらなと」
ヒトに伝えたい小田原の魅力
「ヒトとヒトとの交流で栄えてきた町だからこそ
歴史があるのにオープンであるところですかね」
「城下町、そして宿場町として栄えた小田原は、物理的にも心理的にもヒトとヒトとのコミュニケーションをつないできた町だと思うんです。だからこそ、いろんな文化が育ち、混じり、生まれてきたんじゃないかなと。私はそんな町で文化の一端を担うひとりとして、江嶋のフィルターを通して小田原の魅力を外に発信していきたいと思っています」
まとめ
創業から360年の歴史を歩んでこられた理由を、明確に「ヒトとの縁」と言い切り、ひとつひとつのコミュニケーションの重要性を説いてくれた17代目「平八」江嶋賢さん。そんな彼が語る日本文化とは。そして、そんな彼が選び、創る商品とは。どの時代にも常連が存在した老舗「江嶋」にいけば聞けるかもしれない。