木工所「ラ・ルース」を経営する相田秀和さん。小田原の間伐材からつくる食器ブランド「ひきよせ」を生み出し、2014年にはグッドデザイン賞を受賞。森林保全活動にも積極的に取り組み、自然に還る賞品をつくり続けるまでの道のりを聞いた。
いまに至るまでの道のり
「プラスチック製品で成功したのですが罪悪感が生まれ。
日本の間伐材で何かつくれないかと考えるようになりました」
「ラ・ルースを立ち上げる前は筆記具メーカーにつとめていました。企業のノベルティも作っていて、そのころ銀行が配っていたボールペンでシェアを持っていたような大きな会社でした。
当時のノベルティはプラスチック製が主流で、木製品は木目が違うと不良品になる可能性が高いという理由で不向きといわれていました。
のちに会社からひとり出て、セールスレップになった際、当時その会社の専務で、今ではサーフィンを一緒にする友人から『いずれ小田原に帰ってくるなら、木工やってみたらどうだ』といわれたんですよ。木工製品はそれまで扱ったことがなかったから、逆に面白いかもってやってみることにしました。
でも、最初から今のような環境を配慮した製品をつくっていたわけではありません。最初に一番売れたのは、不飽和ポリエステル樹脂(編集者注:ガラス繊維強化プラスチック)の商品です。きれいなパーツをつくることができて、写真立てやマグネット、画びょうなどを大量に作りました。
でもね。この商品が売れれば売れるほど罪悪感を抱くようになってしまって。会社としては儲かるけど、いずれは捨てられて、ごみ焼却炉に入れば高温になって炉を壊す。環境に悪いことをしているんだよなって。
その一方で、日本の森林が保全されていないことも知るようになりました。日本では70年以上前に多くの人たちが後世のためにと一生懸命木を植えてくれたのに、海外の輸入材が入ってきたことで、建築業界で使われなくなってしまった。林業にお金が回らなくなってしまったんですよね。
日本の木材の使い道を作りたいと思い、始めたのが国産ヒノキの間伐材を使った商品開発でした。前職の筆記用具メーカーで培った経験を生かし、鉛筆を作り始めました。林野庁の外郭団体である『サンキューネット』に相談したところ、森林を保有していた企業様の協力もあって多くの鉛筆を子どもたちに配ることができたんです。」
客観的に見たご自身について
「なんでもトライする性格です。
課題が見つかれば、自分で挑戦してみることに尽きると思う」
「創業当時はOEM(他社ブランド品製造)が中心。でもOEMはリスクが大きかったんですよね。『納期に間に合わなかったらどうしよう』、『人に迷惑かけたらどうしよう』と考えるのも胃が痛い。オリジナルのブランド品は不良品ですと言われたら『一個交換します』とできますけど、OEMだとそう簡単にいきません。
間伐材を用いたオリジナル商品を作ろうという社内の気運も高まっていたので、デザイナーの山田佳一朗さんに加わってもらい、間伐材を使ったシリーズ『ひきよせ』が生まれました。2014年にはグッドデザイン賞をいただき、2015年にはフランス・パリ市で行われたデザイン見本市『メゾン・エ・オブジェ』にも出展しました。クリスチャン・ディオールなどからも注文が入るようになったんです。」
木工経営者として最も大切にしていること
「木に触れて、気持ちが良いものをつくる」
「ラ・ルースは『木の持つ良さを、気持ちの良さに』を掲げています。
木は70年間かけてゆっくり成長してきたんですよ。私たちの暮らしを見守るようにね。だから、木をモノにしてあげて、人が触って「良いな」って思ってもらえたらないいよなって。そういう時に木が一番活きるのではないでしょうかね。
二酸化炭素を削減するためにも、木の有効活用は推奨されています。木は燃やしても二酸化炭素の排出量はプラマイゼロだから、バイオマスとして利用が広がっているわけです。でも、我々は木工屋として、燃やす前にも何かしら使ってもらえるものを生み出せればいいと思っています。」
これからの展望
「木のある暮らしを広げていきたい」
「小田原のスギとヒノキをいっぱい使いたいですね。テーブルやお椀だけではなく、内装材としても使っていきたい。看板やトイレのサインでもいいし、少しずつでも木を使ってもらえるようにしていけたらと思っています。木という枠組みの中でいろんなことをやっていきたいという思いは、これから先もきっと変わらないと思います。
私たちがいいモノをつくって商流を生むことができれば、お客さまの暮らしも豊かになって、林業にもお金が循環してきも守られて、そして我々の会社の経営もうまくいく。そんな方向に向かっていきたいです。」
人に伝えたい小田原の魅力
「工場付近が好きですね。
木工製品をつくって、自分の海もきれいにできたら一番いい」
「小田原の好きな景色は向上から見える富士山。すごい綺麗なんですよ。矢倉岳(やぐらだけ)が手前にかぶってるのが嫌だって人もいるけど、矢倉岳があるからこそ良いんじゃないかなって気もして。
あとは工場付近がすごい好きです。山が見えて、川があって、畑や田んぼ、畜産もあって。小田原のいい部分が一面に見渡せる場所なんです。
そしてなんといっても小田原は海ですよね。自分はサーファーなので、自分の海が汚れるのが嫌なんです。だから。自然への負荷が少ない木工製品ってのはあってるんですよね。自分の商売が海を綺麗にしていくとなると、一番楽だし、精神的にもいいんです。」
まとめ
相田さんが自然に循環する商いを行うという志を抱いたのは、何も世の中が循環ビジネスブームだからではない。サーファーとして海を愛し、木に触れた時の気持ちよさを大切にしたいという原体験があるからだ。
「自然は気持ちがいい。だから守りたい」。そんなストレートな想いを持った人の輪がラ・ルースの製品の周りには広がっている。