無農薬のお茶をつくるティーファクトリーでありながら、オーナーが好きなカレーやスイーツを楽しめるカフェでもあり、イベントスペースでもある「如春園」。訪れた人は言う。「本当の魅力は行ってみなければわからない」と。妻とともに地域を巻き込み独自の存在価値を模索する「如春園」の代表、小倉友哉さんを取材してみた。
いまに至るまでの道のりとは?
「最初は趣味の延長ではじめたのですが
気づいたら店舗までつくっていました」
「大学を卒業して専門学校を出た後は都内の旅行会社に勤めていたのですが、もともとお茶づくりに興味があったので、お茶づくりの研修に参加し、実際に茶畑をかりるようになったことがはじまりですかね。
その後、子供が生まれたことがきっかけとなり2010年に都内から小田原に移住してきたのですが、旅行会社の仕事も続けていたので最初のうちはお茶づくりも特に屋号名などは設定せずに、ゆっくりと続けていたんです。
そうしているうちに、ありがたいことに段々と僕たちのつくっている農薬を使わないお茶の認知が広がっていきまして。レストランやホテルに卸しをはじめることになったんです。
そして、せっかくだから、皆が集うことができる場所をつくろうということで、ティーファクトリー兼カフェをつくったというのが経緯ですかね。
実はこの建物は、地元で100年以上愛されてきた『下田豆腐店』という豆腐屋の店舗をなるべく当時の面影を残してリノベーションしておりまして。形は違っても、こうしてまたこの建物で地元に根差した活動ができていることは感慨深いですね。」
客観的に見て、自身はどんなヒト?
「日々の生活を楽しみながらゆっくりと
未来に向かっていきたいタイプです」
「如春園の名は、作家の井上靖さんの座右の銘としても知られる『これを養うこと春のごとし』という言葉に由来していまして。つまり春が自然を育ませるように、あせらずじっくりと生きていこう、という意味なんです。
この言葉に惹かれたことからもわかる通り、僕は大きな目標に勢いよく突進していくタイプではなく、日々の生活を楽しみながらゆっくりと未来に向かっていきたいタイプなのかと。
好きなことをちゃんと努力をしながら続けていたら、そこにはきっと人が集まり、結果もついてくると信じているんですよね。如春園がお茶の製造や販売だけにとどまらず、妻が好きなスイーツや僕の好きなカレーを『カフェ』という形で提供していて、さらに色んなイベントも開催しているのは、そういった背景もあるからなんです。
つまり、極端にいうと如春園はティーファクトリーというよりも、僕と妻がやりたいことを追求するための『ハコ』みたいなイメージに近いのかなと。だから、たまに『お茶の工房なのにいろいろなことをやっていて凄いですね』と言われることがあるのですが、そうではなく自分たちが好きなことを深ぼっていった結果なんです。」
店主として最も大事にしていること
「ヒトが集って何かが生まれる。
そんな場所でありたいと思っています」
「僕も妻も若いころから旅が好きだったのですが、それはいろんなヒトやモノに出会えるからなんです。だから、如春園でもそういった体験を僕たちはもちろんのことお客さんにもしてもらいたいな思っていまして。
僕らの考えや価値観を押しつけたりすることはしないですし、なるべくお店に入りやすいような雰囲気づくりを心掛けています。
お店の奥にピアノが置いてあるのですが、ふらっときたお客さんがおもむろにピアノを弾きはじめて突然セッションが始まったり、お店でたまたま出会ったお客さん同士が会話を始めてそこから仕事の話になったりすることがよくあるのですが、そういった光景を見ている時が一番嬉しいですね。」
これからの展望
「『赤ちょうちん』のような存在になれたら
それが一番理想ですかね」
「僕らがどう、というよりも、如春園が地域のコミュニティの中心のような存在になれれば良いなと思っています。何か用はなくても『とりあえず如春園に行ってみようかな』みたいな存在でありたいなと。僕たちがここをオープンさせてから今にいたるまで、コロナウイルスの影響もあり、正直やりたいことの半分もできていないんです。
こんな状況じゃなければ、本当は海外の方にももっといっぱい来てもらいたいですしね。だから、皆が安心して外出できるような未来がきたあかつきには、もっとたくさんのお客様が来てくれるような仕掛けをさらにつくっていきたいですね。」
ヒトに伝えたい小田原の魅力
「自然が豊かな郊外でありながらも
面白いヒトがいっぱいいる、それが一番の魅力です」
「これだけ自然豊かな海と山と川に囲まれていながらも、東京から電車でも車でも近い立地というのは小田原ならではですよね。だからといってなのかはわからないですが、クリエイティブな職種をはじめとしたさまざまな仕事をなさっている方がいっぱいいるというのがこの街の特徴かと。
そして、街自体はコンパクトだから気になる人がいればすぐに会うことができるし、如春園のような場所をつくれば自分からアプローチをかけなくても自然と集まることができる。それが一番良いところだと思っています。」
まとめ
「やりたいことを一生懸命やる」。そんな、だれもができそうで実は一番難しいことを実践し続けてきた小倉さん。そして、過去にあった大変なことよりも、これからやってみたいことをピュアな目でイキイキと語る彼の姿を見ていたら、如春園にひとが集まる理由がなんとなくわかった気がした。小倉さんが思い描く未来をぜひ近くで体験してほしい。