「小田原」と聞いて、海や山といった自然をイメージする人は多いのではないだろうか。そのどちらも一度に感じることができる場所が、今回紹介する「サドルバックカフェ」。山の上にあり、バスは1時間に1本ほどしか走らない不便なこの店に、なぜ人が集まるのか。その場所でできる特別な体験を紹介する。
いまに至るまでの道のりとは?
「最初はカフェなんてやるつもりなかったんだよ。
色々やってきて落ち着いたのがこのお店なのかな」
「うちはもともと800年近くの歴史をもつ家系なんだけど、祖父の代からみかん農家をはじめてね。その当時は景気がよくて、幼いころは結構いい暮らしができていたと思うよ。そのみかん農家は兄が継ぐものだと思っていたから、私は青年海外協力隊に入って発展途上国で土木を教えるのが夢だったんだ。でも、継ぐはずだった兄が外へ出てしまって。仕方なく農家を継ぐことにしたんだよね。
ただ私が20歳になった頃、オレンジの輸入自由化や食の多様化の影響でみかんはもう落ち目でね。何か違うことをやった方がいいのかなと思っていたんだよね。
ちょうどその時に小さい頃からやっていたバイク仲間と海外旅行することになって。そこで見た、フランスにあるエズという町の景色にすごく感動しちゃってね。美しい海が一望出来て、そこを眺めながらワインを楽しんだんだよ。これはうちでも再現できる、これはやってみたいと思ったのが店を始めたきっかけなんだよね。
でもすぐにこのカフェができたわけじゃなくて、最初は小さな喫茶店をやっていたんだ。当時の日本には、外食の習慣がなかったからファミレスもテラス席もない時代でね。私自身がモトクロス好きというのもあってダートコースも併設した喫茶店にしたんだよ。
で、結果的に当時のオートバイブームも影響して、ライダーがものすごく集まるようになって。1980年頃のバイク好きでここを知らない人はいなかったんじゃないかな。
牧場も最初からやろうと決めていたわけではなかったんだ。今から30年前くらいに知り合いで日本の馬を飼育している人がいてね。その馬を見たらもう連れて帰りたくなっちゃって。そうこうしてるうちに自然と馬も牛も羊もヤギも飼うようになっていった感じかな。
そこでまた違うことをやってみようってことで、牧場をはじめて、今の店舗も作ったんだけど、いつも深く考えずに勢いでやっちゃうんだよね」
客観的に見て、自身はどんなヒト?
「やりたいことはやってきた。単純にわがままなのかもしれないね」
「今までの道のりを聞いていて思ったかもしれないけど、基本的にやりたいと思ったことをその時に思いっきりやりこんできたと思う。でも、ただ闇雲にあれもこれもと手を出すのではなくて、ひとつのことをやり切って自分で納得して『卒業』してから次にいくっていうことは決めていたね。
次に行くときも、新しく何をやるのか見えてからじゃないと動けないじゃない?見えていない状況で何かはじめても中途半端になってしまうからね。
別に難しいことをしているわけではなくて、目の前にあることを純粋に楽しんでやってきただけなんだよ。ここに来る人が喜んでくれたらいいなと思って色々やっているけど、これいいでしょ?と相手に押し付けることはしたくないかな
店主として最も大事にしていること
「この場所が誰かの人生のきっかけになってくれたら、
こんなにうれしいことはないね」
「牧場をはじめた頃によく来ていた近所の少年がいてね。その子がここで動物に興味を持って獣医になったんだけど、それを聞いたときは本当に嬉しかったね。
他にもこの場所で出会って結婚した人の仲人をやったことがあるし、海外の人たちが集まって毎年パーティーを開いたり、熱海や箱根旅行の帰りに近況報告をしに来てくれる人たちもいるんだよ。
そういう誰かの思い出の一部になれていると感じた時が一番のやりがいを感じるし、誰かの思い出になっているこの場所が、ずっと変わらずにあり続けるためにこれからも頑張っていこうと思ってるよ」
これからの展望
「サドルバックカフェ の社長としてではなく
高橋行雄としてこれからも色んな人と出会っていきたい」
「私は純粋に人と会うのが好きなだけ。人懐っこい性格だから、はじめて会った人でも話せば友達だと思うし、もう何年も前からその人のことを知っているような気がしちゃうんだよね。
だから、肩書きを気にするのはあまり好きじゃない。『サドルバックの社長』としてではなく、『高橋行雄』として人に会って、人間同士の話を楽しみたいからね。ピュアな人と会うと嬉しくなるし、自分自身もピュアであり続けたいなと思うよ。
自分の人生が終わるとき、財産をどれだけ残してきたとかではなく、誰かに寂しいな、もっと話したかったなと思われたら、いい生き方をしてこれたんだなと感じることができると思うんだ」
ヒトに伝えたい小田原の魅力
「小田原は文化がミックスされた街。
世の中の縮図になっているんだよね」
「カフェの先は真鶴なので、ここが小田原の南端部。私はこの山の上で『小田原の番人』としいて街を見ているという気持ちでいる。
新幹線があって都心に近い分、文化は遅れていないし田舎過ぎない。でも自然もすぐ近くにある。何かに特化しているわけではないが、全ての文化がミックスされているし、ないものがない街だなと思うよ」
まとめ
自由な生き方がしづらい現代。「わかったような気になっていないで、考えすぎずにやりたいことをまずやってみる」という考えに、心揺さぶられるものがあった。
「人と出会うのが好きで、話すことが楽しいんだよ」と私たちの取材を終始笑顔で受けてくれた高橋さん。思わず「じゃあ、また」と言いたくなるほど、ピュアで魅力的な髙橋さんの周りはこれからも笑顔で溢れるだろう。
サドルバックカフェ
〒250-0025
神奈川県小田原市江之浦415
電話:0465-29-0830
営業時間:カフェ 11:00~
(※新型コロナウイルス感染症拡大にともない営業時間に変更がある可能性がございます。詳しくはHPをご確認ください。)