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農薬や化学肥料を使わずにつくられる「お米の王様」

志村屋米穀店の「お米の王様」

2022.08.25
農薬や化学肥料を使わずにつくられる「お米の王様」

収穫まで88回の手間がかかることから「米」という漢字になったといわれており、昔から日本人の主食として歴史を重ねてきたお米。今回紹介するのは小田原で米屋と米農家の両方を営んでいる志村屋米穀店のつくる「いのちの壱」という品種の「お米の王様」だ。このお米は農薬、化学肥料を使用せずつくられている。「お米の王様」のおいしさの秘密を伺った。

ぐうぜん発見された突然変異の希少な品種

「いのちの壱」という品種は2000年に岐阜県で偶然見つかった。コシヒカリの田んぼの中に、他の稲より15センチほど高い稲があり、調べてみたところコシヒカリの突然変異種、つまり新しい品種ということがわかった。

このお米は一粒が、コシヒカリと比べると1.5倍ほどあり、その大きさに驚かされる。炊き方は水加減を通常より若干少な目に、浸し時間は通常より短めの10~15分ほど。むらし後すぐにしゃもじでごはんを十文字に切り、ごはん一粒一粒を空気にさらすイメージでしゃもじで起こし、再び蓋をしめる。そうすると、余分な水分がとび、ごはんがしっかりと立つ。食欲をそそる強い香りが沸き立ち、もっちりとした食感、豊かな甘みが口の中に広がる。まさに「お米の王様」だ。

そんな「いのちの壱」を「お米の王様」と名付け、農薬・化学肥料を使用せずに小田原で栽培しているのは、1887年創業の志村屋米穀店 5代目の志村成則さんだ。志村屋米穀店はもともとはお米の卸しを生業としてきたが、5代目志村さんが自社栽培も手掛けるようになった。それは「田んぼを広げて自然を守り、世の中の役に立ちたい」という理念としていたからだった。

ただでさえ栽培の難しい希少品種が無農薬でつくられる価値

「お米の王様」は他の品種と比べて暑さに弱く、病気になりやすいという特徴が有る。ただでさえ繊細なお米を農薬を使わずにつくるとなると、雑草を手作業で抜かなければならず労力がかかる。

そもそも農薬は戦後の食料不足や人口増加に伴い、お米の生産性を上げるため普及してきた経緯があり、需要と供給を維持するためには重要な役割を担っていた。農薬の使用には労働時間の減少、虫による被害防止、安定した生産性などのメリットがあるが、それでも5代目志村さんは農薬を使わない米づくりをあきらめなかった。

自然の中で生き物が循環できるような農業のあり方を模索したいと強く想っていたという。手間がかかった田んぼには、おたまじゃくしが泳ぎ、秋にはトンボが飛び回り、生き物がいきいきと暮らしている。

「お米の王様」の存在が
「小田原産」のお米の存続に繋がる

田んぼは一度宅地用に転用されると、農地に戻すことが困難になってしまう。つまり、年々減りつつある田んぼをどこかで食い止めない限り、その土地でお米をつくる場所自体が無くなる可能性があるのだ。小田原はお米の産地としてはまだまだ認知されていない。しかし、農薬を使わずに希少種の「お米の王様」をつくることで、小田原産のブランディングの一端を担う可能性を秘めている。

「お米の王様」が認知されることによって、小田原産のお米自体のブランド力があがれば、後継者不足や高齢化によって使われなくなった田んぼが使われるようになる。結果的に田んぼが広がり、小田原産のお米を残したい、それが志村さんの願いである。

小田原の水が育むお米のおいしさ

おいしいお米を作る条件の一つは水にあると志村さんは語る。

「小田原の水には豊富なミネラル分が含まれていて、お米を大きくおいしく育てるのに重要な役割を担っているんです。湧き水や川の水、水の大切さがわかっているからこそ、出来るだけ自然の状態で循環させたいんですよ」.
 
水は森から川、そして海へとつながってく。多くの生き物が棲む自然の中で水も育まれれていくのだ。環境に負荷をかけない農業は、生き物のためだけではなく、私たちのおいしい暮らしにも大切なことなのではなかろうか。

志村屋米穀店

〒250-0004
神奈川県 小田原市浜町4-3-3
電話:0465-24-2224
営業時間:8:30~17:30
定休日:水曜日、日曜日、祝日

https://shimurice.com/