赤いノイバラの実が生き生きと映えるこのリースは、小田原・箱根を中心に活動するリース作家・赤平千津子さんによって生み出されたものだ。植物そのものが持つ美しさをそのままに表現される魅力的な作品の背景に込められた想いとは。
ひとつひとつ丁寧につくられる自然を活かしたアイテム
赤平さんの作品は、リースをはじめ、ブーケやガーランド、瓶に詰められたグラスフラワーなど、自然の美しさをあるがままに表現している。
作品に使われる植物は、市場から仕入れたものではなく、赤平さん自ら野山で採取してきたものや道端の草花など、植物本来のあるがままの姿を大切にしてつくられている。
作品に使われる草花は、採集したのち、ひとつひとつ傷みや汚れを取り除き、乾燥させたあと、ドライフラワーとなり、リースやブーケへと生まれ変わっていく。
多種多様な植物を組み合わせながら、時間をかけ丁寧につくられるリースやブーケは、自然体で情緒的な美しさが表れている。
時間とともに変化する「あるがまま」を楽しむ作品
赤平さんのつくりだす作品の特徴は大きくふたつある。
ひとつめは自然の中で育つ植物のあるがままの形が活かされていること。作品に使われる植物は、必要以上に手を加えず、人がつくることのできない自然の美しい色や形を大切にされている。自然が生み出した形や曲線が魅力的だ。
作品を制作するときも、「つくる」のではなく、自然の中から植物を「運んできた」という感覚で表現しているという。その作品からは、厳しい自然の中でたくましく生きる植物の命の輝きを感じることができる。
ふたつめは長く楽しめるように、さまざまな工夫や工程を経て丁寧につくられていることだ。自然のあるがままを表現するにも、すぐに形が崩れてしまったり、虫が発生したりしないよう、最善を尽くして下準備に時間をかけているそうだ。そうしてつくられたリースやブーケは、時を経て少しずつ色が変わり、より味わい深く、緑々としていた頃とはまた違った雰囲気を楽しむことができる。
赤平さんのつくりだすリースやブーケは、見る人の心を癒やす、自然のうつろいを感じられる作品だ。
自然のメッセンジャーとして
材料の植物は、赤平さん自ら野山や道端を歩き見つけたものだ。ときには植物のいちばんよい時期に採取するためにその植物が成長するのを待ち、何ヶ月もかけ幾度も足を運ぶそうだ。
山や森は日常では知ることのできない美しさに溢れている。その自然の中では、植物だけでなくたくさんの生き物が懸命に生きていることがわかる。赤平さんはリースやブーケを通して、たくさんの人にそれらを伝え、自然を身近に感じてもらいたいと語る。
また、赤平さんはそうした美しさの中にも、自然界の変化を感じるという。地球温暖化や自然災害だけでなく、開発のためにたくさんの木が切られ、またその一方で山の管理がされず、足を踏みこむこともできない状態になっている場所も多い。そうした現状は、そこに住む動物や生き物だけではなく、私たち人間にも大きな影響がある。
赤平さんのつくりだす作品には、そのような厳しい自然の様子を、自らの作品を通して知ってもらい、自然を考えるきっかけになったらという想いが込められている。
小田原の豊かな自然にはぐくまれた作品たち
小田原は海、川、そして山の豊かな自然であふれている。作品は、その美しさに目を向けてもらうべく、自然と暮らす赤平さん自ら山へ赴き、「自然のあるがまま」に生みだされている。
時代とともに人々の暮らしや自然が変わっていく中で、この緑豊かな小田原だからこその素敵な作品をいつまでも生みだしてもらいたい。