小田原に木工所を構える「ラ・ルース」がつくる「ひきよせ」シリーズは、木の肌ざわりや表情をありのままに感じることができる器たち。「木の持つ良さを、気持ちの良さに」というラ・ルースのものづくり理念をよく表している作品の魅力を紹介する。
間伐材をつかい、小田原の森を未来に残す
小田原市には箱根寄木細工や小田原漆器など木工所が多いが、ラ・ルースは森林保全に特に積極的に取り組んでいる会社として知られている。この「ひきよせ」シリーズの材料は小田原のヒノキの間伐材。地元の間伐材をつかうことで、林業にお金が循環し、森の手入れが行き届くことを図っている。
「日本では70年以上前に多くの人が後世のためにと一生懸命、木を植えてくれたのに、海外の輸入材が入ってきたことで、建築業界で使われなくなってしまったんです。一方海外では森林伐採が問題になっている有様です。日本の林業にお金を回して再生する必要性を感じました。」とラ・ルースの創業者である相田秀和さんはいう。
器に見る寄木の意匠は、古くから伝わる技法によるもの
「ひきよせ」の特徴は、木地挽きと呼ばれる古くからの小田原の技法を用いていることだ。一度木材を細かい棒材にしてから、一枚の寄木の板をつくり、円板に加工。その後中心部をくり抜いた直径の異なる輪形の木材を複数用意し、重ねていく。
重ねられた木材は最終的にろくろで成形され、滑らかな手触りの器へとなる。手間をかけてつくられるそのうつわの側面をみれば、寄木の意匠が施された様子がよくわかるだろう。
もともとは筆記具メーカーにつとめ、プラスチック製品を主に製造していた過去を持つ相田さんだったが、次第に日本の森林保全活動に注力したいという想いが強くなり、国産のヒノキの間伐材を使った商品開発を始めたという。前職で培った経験を活かし、はじめにつくったのは鉛筆。そうして徐々に他の木工製品を手がけ、「ひきよせ」をはじめとした製品をつくる現在に至る。
人と同じ時を生きる木へのリスペクトは
ひとつの器をつくりだす時間の長さに現れる
なぜ、このような手間をかけるのか。それは寄木にすることで、木材の廃棄量を減らすことができるからだという。この技法を使うことで、一枚の無垢材から削り出される器よりも使う木材量を減らすことができるのだとか。単純に三段の器であれば、木材量は1/3しか使わずに済むというから驚きだ。
一般的に、木材には割れや節などが存在する。もし一枚の大きな板から形を削り出して、器の表面に節などが出てしまったらどうなるか。その商品はまるごと不良品として捨てられてしまう。
一方、ラ・ルースのように一度細かい棒材にしておけば、節や割れを見つけても棒材部分だけを取り除き、残りを寄木にして製品にすることができる。「何十年かけて大きくなった木が一度も使われずに燃やされるなんてね。器として使ってもらいたいじゃないですか」と相田さんはいう。
木を活かし続けたいつくり手の想いがこめられた
人が触れて気持ちが良いフォルム
「ひきよせ」は間伐材を無駄なく使いたいというつくり手の想いを、使い手にとっての美しさに昇華しているところも忘れてはいけない。とにかくナチュラルな木目の美しさと、手に馴染むフォルムも気持ちがよい。
このデザインを手掛けたのはデザイナーの山田佳一朗氏(KAICHI DESIGN)。ものづくり中小企業とデザイナーのマッチングを目的にした「東京ビジネスデザインアワード」に2013年に応募したのが出会いのきっかけだ。2014年度には「ひきよせ」がグッドデザイン賞を受賞し、2015年にはフランス・パリ市で行われたデザイン見本市「メゾン・エ・オブジェ」でも高い評価を受けることにつながった。
木材はヒノキやウォールナット(クルミ)などがあり、ライフスタイルに応じて様々な色味を選ぶことができる。またラ・ルースでは「ひきよせ」の他に「センセイシャ」という100%天然成分でつくられた石鹸も輸入販売しており、これは天然素材なので1日でバクテリア分解でき、山、川、海を汚さず、自然と体にも優しい石鹸だそう。さらに今後はヒノキをベースにしたアロマオイルの制作を見据え、箱根のホテルに訪れるお客様をヒノキの良い香りでお出迎えできたら、と前向きに取り組んでいるそうだ。
そんな「木のある暮らし」に憧れる方なら、魅力が十分に伝わるのではないだろうか。是非、多くのおうちで木の気持ち良さを取り入れてほしい。