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「現代の和風」を目指す創作モダン家具

創作家具

2023.06.20
「現代の和風」を目指す創作モダン家具

約45年にわたり家具職人として活躍してきた安藤和夫さん。彼のつくる家具には和風でも洋風でもない独特な世界観が見られ、その実力は横浜高島屋の美術画廊で定期的に展示会がおこなわれるほど。本人曰く「現代の和風」をうたってつくられる家具の細部には、滑らかな曲線が再現されており、貝や葉などの自然に学んだラインが表現されている。

製作歴40年の知見を生かしてつくられる創作家具

安藤さんがつくる家具は2種類ある。ひとつは「注文家具」としてつくられるもの。椅子やテーブル、子供用の勉強机など、顧客のニーズに合わせてゼロからつくられる。過去には小田原市に店舗を構える「小田原おでん本陣」やフレンチ「iTToku」、そして「麦踏」などの看板制作もおこなってきた。
全国から製作依頼があり、「ネット上で私の家具を探されて、遠方から新幹線に乗って来られるお客様もいらっしゃいました。お客様が持つイメージや夢などの、まだ形になっていないものを、会話を通じて形にしていくんです。お客様が本当に必要とする、世界でただひとつの家具をつくれることがこの仕事の醍醐味ですね」と、安藤さんは話す。

もうひとつは、「作品」としての家具。安藤さんが家具製作に携わった40年間で得た技術を活かし、本人がつくりたいもの、そして世の中に提案したいものをカタチにしたのがそれらだ。その中でもメインテーマは「新しいいのりのかたち」としての厨子(ずし)づくりだ。安藤さんは2年に1度、横浜高島屋の美術画廊で個展を開き、厨子や棚、デスクや平卓など、その年によって様々な家具を展示している。
今回取材したのは後者の安藤さんの作品たち。「アート」といっても過言ではないそれらの魅力を紹介する。

その家具の特徴は、「空間」をつくりだすということ

安藤さんは、置かれるだけでその空間の空気を変えるような作品づくりを目指す。椅子にしても座り心地の良さという機能面だけでなく、誰も座っていない時にどう見えるのか、そしてどう空間に影響を与えるのかを常に考えて設計するという。

それでいながら、これらの家具は使い手が自由な発想で家具に向きあえるような、良い意味での汎用性も持ち合わせている。また、日本の文化を深く理解した上でアウトプットされるディテールも彼の作品の特徴と言えるだろう。

近年、安藤さんが注力している「違い棚」をみるとその特徴がよくわかる。一見すると、非常にシンプルなデザインであるものの、まるで雲がたなびいて見えるような構造や、白い雲がかすんで見えるような背版の様子は、棚としてはもちろんだが、それ単体で部屋全体に和風の雰囲気をもたらす。

日本の「天下の三棚」のひとつである、京都の修学院離宮にある「霞棚」からインスパイアを受けて製作されたこの棚は、日本の文化をリスペクトしながら作家としての現代語に翻訳した彼ならではの作品といえるだろう。

「現代の和風」を追求し、作品に落とし込む

先述した「違い棚」をはじめ、安藤さんがつくる家具は一見すると和風の家具であるものの、独特な曲線や全体のシルエットにどことなく洋式らしさが感じられる。これはもともと西洋クラシック家具づくりの修行を10年以上おこなって独立した彼が「この時代に自分にしかつくれないもの」を模索し、導き出した独自の和風様式で、安藤さんはこれを「現代の和風」と呼ぶ。

和風も洋風も入り交じった現代の日本人の暮らしの中で、空間に溶け込みながらも和の空気をもたらすような設計の家具をめざしたもの。「500年後に今の時代を振り返った時、〇〇時代という名前が付いているかもわからない。そんな時代の先駆けに、自分のつくった家具がなっているのかもしれない。そういった気概で家具をつくっているんですよ」と安藤さんは話す。

多様なライフスタイルが入り混じる昨今の日本文化に名前が付いたとき、その時代を象徴する文化作品としてあり続けるのかもしれない。

大自然に囲まれたこの地で次の挑戦を

自然の造形にヒントをもらうことが多いという安藤さんは「植物のつたや海に落ちている貝殻などが見せる曲線に学び、家具の意匠に影響を与えているのかもしれません」と話す。良き水に山に川、そして海に恵まれた土地だからこそ得られる気づきもあるのだろう。

取材の最後に、ご息女の安藤ニキさんとの合作を見せていただいた。二人で作った厨子の扉を開けると、奥の背板には青の世界が広がっていた。

「ニキブルー」と呼ばれるこのデザインは、アクリルやラピスラズリ、そして金箔などを用いて複数の青色を重ねあわせることで、幽玄な力強さを表現している。

厨子に昇華した自然由来の曲線と、「ニキブルー」の力強さが相まって生命力を感じる作品だ。そんな親子の合作は、定期的に横浜高島屋の美術画廊で開催される展示会で見ることができる。安藤さんらのこれからに目が離せない。

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