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地元名産の蜜柑を使った灰釉作品

「工房 橙」の蜜柑灰釉による陶芸作品

2023.08.09
地元名産の蜜柑を使った灰釉作品

小田原市根府川を活動拠点とする作家 鈴木隆さんの作品には、海のように青くきらきらと輝く作品がある。この青色の釉薬(ゆうやく)は、地元で採れる蜜柑の枝葉を燃した灰によって発色している。(釉薬とは焼き物の表面を覆う「うわぐすり」のことで、陶磁器の表面に光沢を出して、液体が染み込むのを防ぐのに用いられる)相模湾を一望できる製作環境に影響されて、海のような青色の美しさを生み出した作品。そんな鈴木さんの作品の魅力を紹介していこう。

晴れた日の海のように輝く青色の釉薬

透き通った青色が特徴的な釉薬は、蜜柑の枝葉を燃やした灰が原料である。灰を釉薬に使用する手法は全国各地にあるが、ここ小田原では蜜柑の生産が盛んで定常的に灰を入手できることから、蜜柑灰を釉薬として使用しているという。

小田原が蜜柑の生産地として盛んな理由は、温暖な気候と水捌けの良い土壌に恵まれた土地環境に由来し、鈴木さんご自身も蜜柑畑を所有し自ら手入れしているそうだ。

もともと、艶の消えたザラザラとした作品づくりが好みだった鈴木さんだが、相模湾を一望できる製作環境に影響されて、自然と青っぽくきらきらとした作品を作るようになったのだとか。綺麗過ぎず、不完全な「自然」に惹かれていき、いつも眺めている相模湾の海の雰囲気が作品に表れている。

使用用途は持ち主のアイデア次第で無限に広がる

鈴木さんの作品は、使用用途が持ち主にゆだねられているのが特徴だ。一つひとつの作品に役割はあっても、その作品をどのように使うかは、手に取った持ち主次第なのである。持ち主の意図によって作品が「台皿」として使われることもあれば、壁掛けの「インテリア」として使用されることもあるそうだ。

アイデア次第でモダンにもクラシカルにも用途の可能性が広がる作品は、持ち主の暮らしを彩るアイテムとなる。そして使っていくうちに、どちらの雰囲気にも馴染む作品からは、使い手を想う鈴木さんの心遣いを垣間見ることとなるだろう。

国内人気ではとどまらない、海外での可能性

地元小田原や西湘地域をはじめ、首都圏で展覧会や作品販売を行う鈴木さんだが、2021年現在、海外での展覧会も予定しているという。きっかけは自身ではじめたインスタグラムだ。

現在アカウントには1万7千人のフォロワーがおり、その多くは海外の方だという。友人が始めたことをきっかけに試してみたところ、英訳した文章を添えるなどの工夫を凝らすことでSNSを通じて国内外を問わない多くのファンが定着したという。

表現したいものが小田原の風景へと近づいていく

鈴木さんの作品には、釉薬を厚く重ねる難しい技法を用いたものがある。釉薬を厚く溜めることで割れてしまうリスクを伴うというが、それでも挑戦するのには他では出せない表現ができるから。

海のような青色の表現は、日頃から相模湾を眺められる製作環境の影響で「環境がいまと違っていたら、もしかしたら別の作品が生まれているかもしれない」と話す。鈴木さんの作品は、山と海の見える小田原だからこそつくりだすことのできる作品なのだろう。