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愛するミツバチがつくる蜂蜜から“ありのままの自然の営み”を伝える

「あさみどり」代表 杉本真理子さんに聴く

2025.04.02
愛するミツバチがつくる蜂蜜から“ありのままの自然の営み”を伝える

柑橘生産の盛んな小田原の地でミツバチと共に蜂蜜を販売し、創業から100年以上に渡りその魅力を発信する国産蜂蜜専門店の「あさみどり」。2022年にはショップ兼カフェ「カフェあさみどり」をオープン。4代目の代表を務める杉本真理子さんに、蜂蜜やミツバチへの熱い想いをうかがった。

いまに至るまでの道のりとは?

「巣箱を開けて、広がるミツバチの世界を目にした時は、その美しさと神秘的な魅力に引き込まれました」

「創業の祖父の代で北海道から小田原に移ってきて、私の記憶がある頃にはもうここで養蜂は始まっていていました。私は父の運転する軽トラの荷台に乗って、みんなで一緒に山でお弁当を食べるのが楽しみでした。当然ハチがたくさんいて、私がおてんばに飛び回るので、よく太ももやふくらはぎを刺されて泣いてましたね(笑)。

高校を卒業して本当は芸術方面に行きたかったのですが、父の勧めで化学系に進んだんです。姉が薬学系だったので、父は娘たちに家業を継いでほしいと思っていたのかもしれません。とはいえ、山とか虫とかが好きなわけではなかったですし、大学卒業後は私も結婚して子供を産んで家庭をもっていたので、はじめは『あさみどり』の仕事は母の手伝いをしているくらいでした。

でも、いざ代替わりとなった時、両親が一生懸命築いてきた会社や蜂蜜を自分が守っていかなければ、と思ったんですよね。そうして継ぐことを決意しました。お世話になっている養蜂家の方に『やっぱり、養蜂やんないとやってけんぞ。ハチを知らないで蜂蜜売るわけにいかないだろう』と強く言われたんです。確かにそうですよね。せっかく養蜂家さんが教えてくれるって言ってくれているので、学ばない手はない!と、思いきって養蜂の修行に出たんです。娘は高校生でしたが、『絶対行った方がいい』と背中を押してくれたのもありがたかったですね。たくさんの方々の力を借りて、いまがあります。

実際に北海道へ養蜂を学びに行ってみたら、衝撃の連続。住みたいくらい好きになってしまったんです。北海道の壮大な自然にも魅せられましたし、とにかくハチもかわいいし。巣箱を開けて広がる、ミツバチがつくり出す世界を初めて目にした時は感動しました。自然のエネルギーがぎゅっとつまった蜂蜜にすっかり魅了されて、このすばらしさをいろいろな人に伝えていかないと、と強く感じました」

客観的に見て、自身はどんなヒト?

「フットワークは軽い方だったと思います」

「若い頃は、どちらかというと、どこかに行ってしまったらそのままどこへ行くか分からない、風船みたいにちゃんと紐でつないでいないと、みたいなタイプでしたね(笑)。でも、だからこそ1ヶ月半の北海道修行にも勢いで行けたのかもしれません。

今は小田原で自分たちで養蜂をしているので、ほかの地域の蜂蜜は長い付き合いのある養蜂家さんたちに送っていただいています。それでもやはり実際に会いに行って話したり一緒に手を動かすことが信頼関係を築くために大事なことなので、今もどんなに忙しくても北海道の採蜜には毎年行っています。スタッフの勉強にもなりますし。

でも行くとなると、なかなかミツバチが花蜜をとりにいく時期が直前まで読めないので、自分の予定と合わせるのが大変。去年も急にキハダの蜜が採れると言われて、もう来週いくぞ、みたいな(笑)」

代表として最も大事にしていること

「私たちが伝えたいのは、ミツバチが届ける自然の恵みと蜂蜜の魅力」

「私がお客様にいつも伝えたいのは、自然の美味しさ。今の日本は砂糖文化なので、体のためにももっと食卓に蜂蜜や自然な食材を取り入れることの大切さを伝えていければと思っています。

あとは、養蜂家さんたちの仕事を伝えていくのも大切なことですよね。養蜂は想像以上に時間と労力のかかるもので、ミツバチを最優先にした生活をし、大自然と共生していく仕事です。そういった背景もお客様にお伝えしながら、手間と愛情がかけられた美味しい蜂蜜を大切に届けていきたいです。」

これからの展望

「一家に一瓶、どの台所にも当たり前に蜂蜜があるようになれば」

「旬の果物を蜂蜜漬けにして保存する。喉がちょっと痛くなったら蜂蜜を舐める。やけどをしたら蜂蜜を塗る……。おいしさ以外にも蜂蜜には計り知れない魅力があるのに、まだまだそのすばらしさが伝わっていないと痛感しています。

そばの花の蜂蜜は、栄養価が高く、風味が豊かであるにもかかわらず、昔は色が濃く一般的な蜂蜜と見た目が異なることから全然売れなかったんです。祖母は『こんなにいいものなのに』と言いながら、体をそばの蜂蜜で洗っていました。

『カフェあさみどり』で蜂蜜をテイスティングしてもらえばそのおいしさや味の違いが伝わりますし、蜂蜜を使った料理を提供することで使い方の提案もできる。蜂蜜に関する書籍も並べて、蜂蜜のすばらしさとおいしさを伝えたくて。最近は若い方にも足を運んでいただけて嬉しいです」

ヒトに伝えたい小田原の魅力

「小田原の山はミツバチにとってすごしやすい環境なんです」

「小田原には、山があって、 川があって、海があって、柑橘の栽培も盛んで気候も温暖。ミツバチにとってはすごしやすい環境なんです。

『はちみつの歴史は人類の歴史』という言葉があるように、人の暮らしの中で蜂蜜は大きな役割を担っています。何世紀もの間、食べ物としてだけでなく伝統医療の分野においても重要な役割を果たしていました。

また、ミツバチは地球上でとても重要な虫であることもぜひ知ってほしいです。野菜や果物、お茶やコーヒーなど、食料になる植物のほとんどがミツバチの受粉によって支えられているんです。『ミツバチが絶滅したら4年後には人類も滅びる』なんて説もあるほど。おいしさはもちろんですが、蜂蜜の魅力を、この小田原の地でさまざまな角度から発信していきたいですね」

まとめ

蜂蜜とミツバチに魅了され、その魅力を優しい口調で愛情たっぷりに語る杉本さん。輝く瞳やはつらつとした笑顔を見ていると、蜂蜜の健康効果を感じずにはいられない。

「あさみどり」には、杉本さんのほかにも、蜂蜜や自然が好きなスタッフたちが笑顔で待っている。そんなスタッフたちの話を聞きながら、かわいいミツバチと壮大な自然が紡ぐ物語を、ぜひ五感で味わってみてほしい。