たんぱく質は、身体(筋肉など)を作る材料となり、心身の調子を整え、感染症などへの抵抗力を保つ上で大切な栄養素です。近年、たんぱく質の摂取量不足として問題になっているのは、高齢者におけるフレイル(虚弱)とサルコペニア(筋肉量の減少、筋力の低下)です。
フレイルとサルコペニアは合併しやすいものです。サルコペニアで筋力が落ちれば、活力が落ちて疲れやすくなり、活動量が減り、食欲がわかなくなって低栄養に陥り、ストレスに対する回復力が低下してフレイルになっていきます。フレイルもサルコペニアも、要介護状態になる大きな要因であり、高齢者が自立して健康に暮らすためには避けるべきものです。そのためには、十分にたんぱく質を摂取し、しっかり身体を動かすことが重要です。吸収しやすく質の高いたんぱく質である魚肉ペプチドは、そのサポートをできる可能性が示されています。
フレイルのチェックをしてみよう!
では、ここでフレイルやサルコペニアになっているかどうかを確認してみましょう。これらの判定基準はいくつかありますが、誰にでも簡単にできる『フレイルチェック』が提案されています。これは「指輪っかテスト」と「イレブン・チェック」の2つで構成されています。
指輪っかテスト
① 両手の親指と人差し指で輪を作ります。
② 利き足でない方のふくらはぎの一番太い部分を、指の輪っかで囲みます。
このとき、足には力を入れず、軽く囲むようにします。
【判定】指の輪っかでちょうど囲める、もしくは隙間ができてしまうようだと、サルコペニアの可能性が高いです。
イレブン・チェック(一部改変)
下記の文章が当てはまる場合は、フレイルの兆候があるので要注意です。
①ほぼ同じ年齢の同性と比較して、健康に気を付けた食事を心がけていない
②野菜料理と主菜(魚・肉)を両方とも毎日2回以上食べていない
③さきいか、たくあんくらいの固さの食品を普通に噛みきることができない
④お茶や汁物でむせることがある
⑤1回30分以上の汗をかく運動を週2回以上、1年以上実施していない
⑥日常生活において、歩行または同等の身体活動を1日1時間以上実施していない
⑦ほぼ同じ年齢の同性と比較して歩く速度が遅い
⑧昨年と比較して外出の回数が減っている
⑨誰かと一緒に食事することが1日に1回もない
⑩自分は活気にあふれているとは思わない
⑪何よりもまず、物忘れが気になる
いかがでしょうか。この『フレイルチェック』で思い当たる部分があれば、ぜひ食生活や運動習慣を見直してみてください。
高齢者はサルコペニア予防のために多くのたんぱく質が必要
フレイルやサルコペニア予防のためには、食生活から筋肉のもととなるたんぱく質を摂取することと、運動して筋肉を刺激し、筋肉がよく作られるようにすることが重要です。
一般的な栄養素の摂取量を示した「日本人の食事摂取基準」では、成人のたんぱく質の推奨量は男性60~65g/日、女性50g/日と記載されています。
しかし、若者や中年に比べて高齢者では、筋肉を作り出すために必要なたんぱく質摂取量が多くなると言われており、高齢者は若い人よりも多くのたんぱく質摂取が必要です。フレイルやサルコペニア予防のために、高齢者は少なくとも 1.0 g/kg体重/日以上のたんぱく質を摂取することが望ましいと言われています。
「もう年だから…」などと言わず、若者以上に積極的にたんぱく質を摂るようにしましょう。
魚肉ペプチドが血中総たんぱく値を改善する可能性が示されました
たんぱく質の中でも、「魚肉ペプチド」は吸収しやすく質の高いたんぱく質です(タンパク質を分解して小さくするとペプチドと呼ばれます)。この魚肉ペプチドを摂取した高齢者では、血液中のたんぱく質の値が改善したという報告が出ています。
特別養護老人ホームで暮らす低栄養の高齢者を対象に、魚肉ペプチドをみそ汁に混ぜるなどして1日10g摂取してもらいました。また、魚肉ペプチドの摂取前と摂取後3週間の時点で採血し、血清総たんぱくの値を測定しました。血清総たんぱくには主にアルブミンや免疫グロブリンが含まれており、栄養不足により減少しますので、栄養状態の指標としてよく用いられます(基準値6.5~8.1g/dL)。
この研究の結果を図に示します。魚肉ペプチドの摂取前は血清総たんぱくの平均値は基準値の下限(6.5g/dL)を下回っており、栄養状態が良くありませんでした。魚肉ペプチドを3週間摂取すると、血清総たんぱくが上昇し、基準値内に収まるようになりました。
このことから、魚肉ペプチドの摂取は血清総たんぱくを上昇させ、栄養状態の改善につながったといえます。この研究を行った施設の調理場からは「純粋な魚肉が原料であるため使用可能な対象者の範囲が広い」ことや「使用量が少量であるため高齢者の特性に合っている」という声が聞かれ、実用性も高いようでした。
※当研究について詳しくは、魚肉たんぱく研究所「資料室」研究データご覧ください。
魚肉ペプチド摂取による血中総タンパク改善作用
要介護状態に陥らないために
今回ご紹介した魚肉ペプチドの研究は特別養護老人ホームで行われているので、対象者は要介護3以上の高齢者です。フレイルやサルコペニアという段階を越えて、要介護状態になって着替えや食事、排泄などに手助けが必要な状態になっている方々です。
そのような方でも魚肉ペプチドの栄養改善効果が見られたのは良いことですが、そもそも要介護状態に陥らないことがフレイルやサルコペニア予防の目的です。「自分はまだ大丈夫だろう」と思わず、今回ご紹介した『フレイルチェック』を定期的に行い、たんぱく質摂取を含めた食事改善や運動などに取り組んでください。
その際のお供として、吸収しやすく質の高いたんぱく質である魚肉ペプチドがお役に立てるかもしれません。興味があれば試してみてくださいね。
<参考文献>
厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2020年版)
東京都医師会:やってみようフレイルチェック